隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

図書館の魔女(下)

高田大介氏の図書館の魔女(下)を読んだ。上巻では後半に刺客に襲われ物語が大きく動き出すかと思いきや、下巻の進行も緩やかに動き出していく感じだった。

まず、マツリカは魔術書・錬金術書を類をこき下ろし、禁書にするなど馬鹿馬鹿しいと一蹴するの所から始まるのだ。その後ストーリーでは、ニザマの宦官の策謀が見えてきて、それに対抗する手はずも着々と整える図書館であったが、そこに第二の刺客が遣わされ、マツリカの利き腕の左手の動きが封じられてしまった。しかし、キリヒトとの間にはあの指話による会話は健在であった。マツリカはニザマの宦官の野望を言葉の力で打ち砕くべく、戦いを挑んでくのだった。本書の250ページ辺りから、物語はスピードを速めて一気呵成に進行していく。

今回、図書館の魔女上・下を読みつつ、この本は一体どんなジャンルに属するのだろうと、づうと考えていた。ファンタジーとはちょっと違うと思う。なぜなら、超自然的なことも幻想的なこともほとんど出てこず、唯一ニザマの刺客を求めて、古アルデッシュに踏み込んだマツリカ一行を襲ったゾンビ兵ぐらいだろう。なにせ、メインヒロイン自身がが魔術を全く信じていないのだから、そういうストーリは出しにくいだろう。思うに、これはある種のミステリーではないかと思った。それも言語に対するミステリー。これは著者が言語学の研究をしていることとも符合する。

上巻において「こんな嵐がひどくなると知りたらましかば」というちょっとしたフレーズから、その裏に潜んでいるもろもろを導き出すところは、あの「9マイルは遠すぎる」思い出すような展開だし、下巻においては、ニザマ帝の宮殿にあった書と帝室典医の言葉使いから、その書の真の書き手を推理する辺りは、まさにミステリーだと感じた。ただ、その目論見がうまくいったかどうかは疑問が残る。というのも、読者は本書で述べられている文法的な文化的な背景が事前にわからないので、それが正しいのかどうか判断できないからだ。なので、せっかく書かれているところがストーリーとして生きていないと思われる。もっとも、だからと言って本書の面白さがなくなってしまうわけではない。

本書において、ニザマの宦官の策謀は図書館の働きにより潰えたのだが、まだ物語は終わっておらず、下巻の最後の部分は次のストリーへのプロローグという感じになっている。実際、同作者による「図書館の魔女(烏の伝言)」も刊行されており、本作の続きであろうと推測したのだが、以下のあらすじからすると、直接つながっていないような気もする。いずれにしても、読まなくてはわからない。

霧深いなか、道案内の剛力たちに守られながら、ニザマの地方官僚の姫君ユシャッバとその近衛兵の一行が尾根を渡っていた。陰謀渦巻く当地で追われた一行は、山を下った先にある港町を目指していた。
剛力集団の中には、鳥飼のエゴンがいた。顔に大きな傷を持つエゴンは言葉をうまく使えないが、鳥たちとは、障害なく意思疎通がとれているようだ。そんな彼の様子を興味深く見ていたのは、他ならぬユシャッバだったーー。

図書館の魔女(上)

高田大介氏の図書館の魔女(上)を読んだ。本書はとにかく厚い。ページ数で652ページあり、厚さからすると、2冊分ぐらいに相当するのではないだろうか。上巻には第一部と第二部が収録されている。しかし、この上巻では、ようやく物語が動き出したところで、今後どのように物語が進んでいくか全くわからない状況だ。しかも、下巻は上巻よりも厚く805ページもある。

架空の世界での物語で、時代区分は封建制時代を想像させる。物語は鍛冶の里で暮らしていた少年キリヒトと師匠が一の谷(この世界で都市がある所)からやって来た図書館付のロワンと一の谷に向かうところから始まる。キリヒトの目的は一の谷にある図書館にいる魔女マツリカに仕えることだった。マツリカは耳は聞こえるが、言葉を発することができず、そのため彼女は手話と操って、他人と会話をする。キリヒトはマツリカの手話通訳士になることを期待されていた。マツリカはまだ10代半ばの少女であり、魔女と言ってもそれは比喩的な意味だ(性格は意地悪で、言葉は辛辣であり、誰にも容赦がない)。「古今の書物を繙き、数多の言語を操って策を巡らせるがゆえ」に魔女と呼ばれている。そのほかに司書のハルカゼとキリンの二人のマツリカより年上の女性と合わせて、図書館の三魔女と揶揄されている。

一の谷の図書館は高い塔になっていて、そこに所蔵される資料を世界中の学究・賢人が求めてやってくるという。上巻においては、資料を求めてやってきたものはまだいない。

ページ数が多いことから想像できるように、物語は詳細が語られて、ストーリの展開は緩やかである。140ページ辺りで二津間(ニザマ)国の宦官ミツクビが何らかの策を一の谷に対して企んでいることが示唆されるが、その話はあまり進展しない。所々に一の谷およびその周辺国の状況が挿入されるが、図書館に差し迫った危機は訪れない。

物語では、マツリカが新しい指話(四本の指の伸ばす動き、縮める動き、遊ばせる動きを組み合わせて、それを音に割り当てる)を発明して、キリヒトに試したり(この指話のおかげで、暗いところでも二人は意思疎通できるようになる)、図書館の塔の傍にある植物園の下に忘れられて地下水道があり、それが城外の町にまで続いていてることをマツリカとキリヒトが発見し、それを探検したりする。この探検も後々ストーリにかかわってくることになるので、無駄に挿入されているわけではない。

520ページ辺りでようやく、マツリカ・キリヒトが川遊びをしているときに、3メータ近くの巨人蛮族の刺客に襲われる、ここから一気に物語が動き出すのかどうか、まだ下巻を読み始めたばかりなのでわからない。