隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

約定

青山文平氏の約定を読んだ。

本書は短編集で、「三筋界隈」、「半席」、「春山入り」、「乳房」、「約定」、「夏の日」の6編が収められている。本書の二編目に「半席」という作品が収められているが、寡聞にしてこの半席という言葉は知らなかった。

御家人から見あがりして旗本になるには、御目見以上の御役目に就かなければならない。ただし、一度召されるだけでは、当人は旗本になっても、代々、旗本を送り出す家にはなれない。当人のみならず、その子も旗本と認められる永々御目見以上の家になるには、少なくとも二つの御役目に就く必要があるのだ。これを果たせなければ、その家は一代御目見の半席となる。(略)

二度目の御目見え以上という条件は、父子二代にわたって達成してもよいことになっている。

ネットで半席を検索してみたが、このような説明を発見できず、これは青山氏の創作なのか、実際このような制度があったのかはわからなかった。

読んで面白かったのは「春山入り」だった。原田大輔は刀屋の結城利兵衛を訪れ、決心を得るため刀を求めようとした。原田大輔は近い将来幼馴染の島崎鉄平を切ることになるのではないかと危惧していた。藩政の行きずまりを改めるために、藩では武断政治から文治政治に改めるようとしていた。そのために、藩政改革が行われており、藩校の小佐野位を大目付の上に置いたり、国外から儒者を招聘しようとしていた。しかし、そのような改革に反対する者もおり、国外から招く儒者を襲撃するという噂があり、馬廻り組に属する原田大輔に護衛の任が与えられた。しかも、襲撃者一団には幼馴染の島崎鉄平が加わっているという噂があった。

宿直明けのある日再び刀屋をおこずれると、島崎鉄平が先日店を訪ねてきたことを原田大輔は知る。そして島崎鉄平は主に近々原田大輔に会うことになると告げていたという。この後、妻に誘われ春山入りした原田大輔はばったりと島崎鉄平と出くわすのだった。

当然そこで二人が切りあうことにはならないのだが、いったいどういういきさつが隠されているのかが話の肝になっている。

流水浮木 最後の太刀

青山文平氏の流水浮木 最後の太刀を読んだ。

江戸時代の武士は家計の助けのためにいろいろな内職をしていた。鉄砲百人組の内職はツツジの栽培が有名であるが、本書ではツツジではなくサツキと書かれている。サツキはツツジの一種であるし、苗木で売っていたとも思えないので、サツキという表現の方が適当かもしれない。

本書の主人公はその鉄砲百人組の伊賀組の山岡晋平。もう六十を超しているが、まだ隠居しておらず、役についている。と言っても、鉄砲百人組の仕事は月に四五日、江戸城の門に詰めて警護をする役目である。伊賀ものの末裔とはいっても、役目は門の警備なのだ。

その山岡晋平はひょんなことから、幼馴染の川井佐吉が刺殺さる所を目撃した。その下手人は晋平が顔に大きなほくろがあることを見ていたので、すぐに捕まったが、今度はその下手人が唐丸駕籠で伝馬町に送られているときに何者かによって、刺殺されてしまった。唐丸駕籠には蓆が掛けられていたにもかかわらず、心臓を一突きされていたのだ。その後、晋平は川井佐吉が同心の株を売って、百人町を去ることになっていたことを、別な幼馴染の小林勘兵衛と横尾太一から聞かされた。

山岡晋平は何かのはかりごとが周りで起つているような気がしてきた。そして今度は小林勘兵衛が殺されてしまった。しかも刀を抜く暇もなく切り殺されてしまったのだった。晋平は覚悟を決めて、陰謀に対峙するのだった。

タイトルになっている「流水浮木」は一刀流の技の名前でる。こちらの剣を抑え込もうとする相手の力を使って、向こうの上太刀をとる。そのような技だ。