隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

量子力学で生命の謎を解く

量子力学と生物がいったいどのような関係があるのか不思議に思って読んでみた。量子力学というとトンネル効果とか波動関数とか、わかるようなわからないような話で、それが生物とどういう関係があるのだろうか?

まず、第一章で登場するのはヨーロッパコマドリだ。スウェーデンに生息するこのコマドリがなぜ、正しく渡りをするのか長い間不明だったが、は地磁気を感じ取って、進む方向を決めているというのだ。

第三章で登場するのはオタマジャクシ。オタマジャクシの尾がやがて脚に変化するのも、量子力学が関係しているという。生物の細胞はコラーゲンにより結合しているが、このコラーゲンに対して変化を促しているのが酵素であり、そこに量子力学が関係しているという。

第四章では、光合成が登場する。ここで光合成に関してその一番重要なクロロフィルに関して説明されている。このクロロフィルにより太陽光から電気エネルギー(電子)を取り出している。また、ここで、光合成と呼吸がそんなに違わない化学反応であることも論じられている。植物は空気中から炭素を得て、光により水を燃やして、電子を取り出し、生体分子を組み立てている。一方、動物は植物などの有機源から炭素を、有機物を燃やして電子を取り出して、生体分子を組み立てている。

第五章は臭いの話。この章に登場するのは、まず、クマノミクマノミは孵化した後、概要の海流に流され、成長してまたもとの珊瑚礁に戻ってくるという。その時にクマノミが頼りにしているのが嗅覚で、嗅覚上皮に臭いの元となる分子が触れることにより検出されているが、詳しいメカニズムはまだ正確にはわかっていない。ただし、ここでも量子力学的作用が関係しているようだ。

第六章では再び磁気が登場する。今回紹介されるのは北アメリカに生息するオオカバマダラだ。オオカバマダラはカナダのトロントからメキシコ中央部の高山まで移動する。しかも3世代かかっての移動だ。その移動には、磁気と体内時計と視覚が組み合わさって成し遂げられてる。この章は量子スピンの説明などが出てきて、はっきり言ってよくわからなかった。

第七章では遺伝子について言及し、進化論に触れ、第八章では心(あるいは意識)について、第九章では生命の起源(いかにして自己複製能力を獲得したか)について触れているが、この領域に関しては量子力学が関与しているという決定的な証拠がないので、あくまでもわかっていることと仮説を述べるにとどめている。更に、第十章では量子生命学という学問に範囲を広げて考察し、ニュートン力学→熱力学→量子力学の関係性について述べている。

本書では難しい数式はほとんど登場しないのだが、いかんせん量子力学のバックグラウンドがないので、量子力学の奇妙なふるまいの説明がピンとこず、生命の不思議については面白いのだが、内容の理解については至らなかった。