隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

たったひとり

乾ルカ氏のたった一人を読んだ。本作はジャンル的にはホラーに属するようだが、ミステリー要素もある小説だ。

帝都大学廃墟探索サークル時旅(ときたび)の5人のメンバーがN県にある打ち捨てられ廃棄になっているラブホテルのホテル・シャトーブランシュを訪れたところから物語が始まる。27年前、このホテルでは局地的な豪雨により発生した土砂災害があり、建物が半壊したまま修理されることもなく、放置されているのだ。事故発生後、土砂の中から白骨化した遺体が発見されたが、道路復旧までに時間がかかったことと夏の暑い日が続いたことにより、遺体の身元は不明であり、性別も不明であった。今回ここを訪れたのはサークル長の4年生芦原隆介、3年生間野坂譲、3年生金城まどか、1年生日吉忍、1年生小野寺秋穂の5人だ。彼らがこの廃墟のラブホテルを訪れたときに不思議なことが起こった。なぜか27年前の土砂災害の時間に閉じ込められてしまったのだ。このホテルから逃げようとしても、土砂災害が発生した後になぜかまた事故直前の時間に戻されてしまう。そして、これも理由はわからないが、ループを繰り返すと、なぜか、災害発生時間までの時間が2分づつ短くなっていくのだ。彼らは、災害発生時に誰か一人死んでいることから、誰かがホテルに残り他の4人が逃げて、災害発生時の状況をなぞることで、事態が打開できるのではないかと想像し、それを実行するのだった。

ストーリはは各一人ずつに割り当てられており、一人でホテルに残ることで、それぞれの過去と向き合い、他のメンバーと向き合い、愛憎、嫉妬、劣等感、優越感が描かれていく。ホテルには彼ら以外の人の姿は見えないのだが、その時にいた人たちの痕跡がほぼリアルタイムで蓄積されていく。例えば、防犯カメラの映像、業務日誌の記述など。それによって少しづつ事故当時何が起きていたかがわかり、そこから事故の状況の推理を進めていくことになる。本作はホラーなのだが、直接的に霊的なものが登場するわけではない。だから、直接的な恐怖心を煽るような記述はないのだが、結末が救われない話になっている。