隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

粘膜黙示録

飴村行氏の粘膜黙示録を読んだ。著者はホラー小説でデビューしたということなのだが、その作品は全然読んでおらず、以下のページを見て興味を持ったので、読んでみた。

hon.bunshun.jp

打ち合わせを兼ねての酒席で何気なく派遣工時代の話をしたところ、同席していた二名の編集者が共に驚愕し、さらに爆笑したのである。そのウケ方たる や店の女将が「何事か?」と見に来たほどで、デビュー前の苦労話、というか「こんな仕事してました」とただ話しただけの身としては戸惑うことしきりであっ た。

 しかしそんな僕(と遠巻きにする女将)を尻目に散々笑い倒した二人は、目尻に滲んだ涙を指先で拭いながらこうのたまったのである。

 編集A「今の日本ではあり得ない話ですね」

 編集B「(頷きながら)訴えたら勝てますよ」

 虚を衝かれた僕は絶句した。彼らの言葉はつぶてのように耳を打ち、脳をビリビリと震わせた。痺れは深部に及び、海馬も丸ごと感電した。同時に記憶庫内に沈殿していた当時の記憶が一斉に蘇り、脳裏の暗闇に次々と映し出された。

 いったいどんなことがあったのだろう?以下のようなことも書かれているので、

デビュー前の『苦労話』が、現代版『蟹工船』に変異した瞬間だった。 

 どんな 騙しにあったのだろう?蟹工船も読んだことはないけれど、「何か騙されて搾取されたのではないか?」と思った。それで読んでみたのだが、ちょっと予想外の展開だった。私には、派遣工の経験はないのだが、「現場には理不尽な上司がいて、平気で暴力をふるい」的なことを想像していた。たしかにそのような話は書いてあった。第十回の「神」(なぜかここには象徴するような事件の名前がなかった)だ。また、第十一回の「世界の終り」(まはた、ドランクモンキー 泣き拳(2003年))も、年末までのほんの数日前に工場閉鎖を言い渡されるという理不尽さと、法的にどうなのだ?と思わせる話ではあった。が、これが現代の蟹工船か?もともと著者自身が、現代版の蟹工船を書く意図がないのだろうと思う。なぜなら、文体が逆恨み精神からくる諧謔調なのだ(蟹工船はそんな話じゃないと思っている)。

 それと私は映画のエイリアンが好きで、ALIEN LEGACYというDVD boxも買ったのだが、エイリアンのあの三形態に(1)フェイス・ハガー、(2)チェスト・バスター、(3)ビック・チャップという名前がついているのは知らなかった(第五回「地獄」)。何歳になっても知らないことはあるものだ。