隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

近世風俗志

守貞謾稿という書物がある。なんでこの書物の存在を知ったのか正確には覚えていないが、何かの本で読んだのだと思う。それもほんの2年ぐらい前だったのだから、まだまだ知らないことが多いものだと、嘆息する。

著者の喜田川守貞は幕末の人で、もともとは大阪生まれだが、二十代後半で江戸に移り住んだようだ。その時京・大阪と江戸の習俗が違っていて、それに興味を覚えたのか、せっせと記録し始めた。それもわざわざ、京・大阪と江戸に言及しながらである。守貞は絵心もあったようで、図録も多数書かれていて、1800年代の京・大阪と江戸の習俗を知るうえで貴重な資料となっている。

興味を持ったので出版されている本がないかと思い調べてみると、楽天booksのバーゲン本に発見したのだが、値段が半額になっているとはいえ、一万七千円となっており、躊躇してしまった。

【バーゲン本】守貞謾稿 翻刻版 全5巻 [ 喜多川 守貞 ]

実はつい最近岩波文庫でも出ていたことを知り、そのタイトルがなぜか「近世風俗志」になっていたのだ。こちらは1996年ぐらいから出版されていて、値段も一冊千円ぐらいなので、五冊合わせても五千円ぐらいだ。これぐらいならば、買える値段だと思った。ただし、出版から20年ぐらい経過しているので、古本を探すことになると思い、amazon.co.jpで探してみると、ほとんど新品と値段が変わらない。それなりに需要があるということなのだろう。

まずは中を見てみようと、一巻目を図書館で借りてきた。字が小さいので、年寄りにはきついが、なかなか面白そうだ。これは手元に置いておいて、暇なときに、ページを繰るのが最適だと思う。いくつか中身を紹介しておく。

江戸時代には今以上に贈答の文化があり、送ったり・送られたりということがよくあったようだ。町奉行所の与力の所には多数の贈り物が集まったらしいが、きっと同じようなものが贈られただろうから、多数の贈り物の処理に困ったのではなかろうか。そんな贈り物を買い取って、また、売るのが 「献残屋」だ。守貞謾稿に以下のように書かれている。

献残屋

武家献備および各互ひの音物(いんもつ)、あるひは市民より献進の諸物、その余残を売るを本とするの名なれど、今は献備の諸品は実用に用ひず、この賈に売り下すなり。これを買ひて献進再用するものはなはだ多く、あるひは私用・他用にすることなり。

上り太刀と名付けて、木太刀を黒漆塗り真鍮の具の物、ただ太刀の形のみの物、太刀献上の例にはこれを用う。太刀代と号して価を副(そ)ふるなり。この太刀等他用しがたく再三用ひるなり。

熨斗鮑(のしあわび)、沽魚(ひもの)、干貝、塩鳥、昆布(こんぶ)、檜台、折櫃(おりびつ)、筥(はこ)、樽の類なり。

葛粉(くずこ)、片栗粉、水飴、金海鼠(きんなまこ)、干鮑(ほしあわび)、くるみ、唐墨(からすみ)、海鼠腸(このわた)、雲丹

上り太刀の所がナントモという感じだ。また、今となっては不思議な商売に「蝋燭の流れ買ひ」がある。

蝋燭の流れ買ひ

挑灯・燭台等すべての燭の流れ余る蠟を買ひ集む。風呂敷を負ひ秤を携ふ。人扮定めなし。故に図せず。

 今の感覚からすると、「ここまで再利用するのか」と驚きを禁じ得ない。