隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

遠縁の女

青山文平氏の遠縁の女を読んだ。本書には短編集で、表題作の他に「機織る武家」、「沼尻新田」が収められている。

面白かったのは、「機織る武家」と「遠縁の女」だ。

機織る武家は主要の登場人物の関係がまず面白い。家付きの娘であった姑、その娘婿由人、由人の嫁。この三人は家族となっているが、それ以上の何物でもなく、赤の他人だ。もともとは、その家には家付きの娘がいたが、産褥で母子ともに死去した。そして、娘婿の後妻となったのが、主人公である娘婿の嫁、縫だ。前半は居場所がなくおどおどする婿の由人、その由人に輪をかけて居場所がない縫、そして由人が携わった川の付け替えで所為で起きた川の氾濫で、縫い父母兄兄嫁と一家が死んでしまって、更に夫婦仲も冷えていく。由人はつまらないしくじりを繰り返し、減俸されてしまい、生活が立ち行かなくなってしまうのだ。縫は覚悟を決めて賃機を始めることになる。もともと縫には機織りの経験があり、機織りの才能が開花して、暮らし向きも安定していくことになる。暮らしが安定すると、人間関係にも変化が出始めていくのだが。

さて、この話はどこに向かうのだろうと思っていると、最後の方で新たに幾いう女が登場し、縫と幾の子供の頃の出来事に話の核心が移っていく。最後の所で語られる話は、ほかの物語でも形を変えて使われているものだが、そこに話を持っていくのかという感じだった。

遠縁の女は怖い女の話だ。江戸時代も寛政時代になり、もう剣だけの時代ではないのだが、父親のすすめにより武者修行の旅に出た片倉隆明。五年にわたり修業をし、木刀ながらお互いに進んで試合をする約束をし、一歩間違ばどちらがが命を落とすかもしれない状況にあった時に、国から父親の死の知らせがやって来た。そのために、突如武者修行を辞めて帰国することになってしまった。

帰国してみると、藩校の朋輩で、その後遠縁の祐筆の市川家に婿入りした誠二郎が2年前に切腹していたことを知る。市川家の当主もだ。理由が知りたく叔父にしつこく聞くと、藩政改革の失敗の責任を取らされてのことという。遠縁の女とは市川家の娘の信江のことだ。叔父は信江には気を付けろという。それでも、信江に話を聞きたくて、三里の距離ではあるが隣国に住む信江に会いに行くと、信江は「許嫁を五年間も放っておいて」となじる。そして、「あれだけは赦せない」ともなじる。隆明には全く覚えのないことだった。それを知りたくて、月に一度信江のもとに通うことになってしまった。やがて信江が語るのは叔父が語ったのとは全く違ったことだった。そして、自分が武者修行の旅に出たのも、そこに理由がったことを知る。

信江の抱いていた感情が恨みなのか、恋慕なのか、それともまた別な感情なのか明らかにされないが、最後の部分のぞっとする怖さを感じた。