隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

クロニスタ 戦争人類学者

柴田勝家氏のクロニスタ 戦争人類学者を読んだ。伊藤計劃トリビュート - 隠居日録に収録されていた南十字星の続きの物語だ。

南十字星は、脳にうえつけられた可塑神経回路網でパーソナルな感覚までも自己相を通して共有し、そのデータは平準化され「正しい人」という集合自我が更新され、それがフィードバックされてるような世界が舞台になっている。しかし、それを拒否して難民として生きている人々もいる。民俗学・人類学の観点から戦闘相手を理解し、戦争の展開に利用する人理部隊に属するシズマが主人公になっている。この物語は長編小説の出だしのようで、多分その長編とは「クロニスタ 戦争人類学者」だと思う。こちらも読んでみようと思う。

本書では、南十字星の章は「太陽に覆われた民」とタイトルを変えて、一章として収録されている。この章を読んだときは今後どのような話になるのか想像できなかったのだが、この所に出てきた金髪の少女(P39)とシズマの物語となっている。物語はこの少女の出自を巡り、シズマはやがて軍を離れ、陸軍・統合軍と戦うことになる物語だ。自己相でつながっていることにより平準化している人類が故に抱える欠陥。それを回避するための統合軍の極秘プロジェクト。「正しい人」という集合自我がありながら、未だに殺し合い・戦争を続ける人類。SFという枠組みを取っているが、実際には意識・認識とは何かに切り込んでいっている非常に興味深い作品だ。

タイトルに用いられているクロニスタであるが、聞きなれない言葉で、本文中で数回「文化技官」のルビとして用いられているが、最後には「歴史を伝える者」のルビとして用いられている。コトバンクによると

kotobank.jp

ということだ。そういう意味では、最後に出てきた「歴史を伝える者」という方が、言葉の定義に沿っているのかもしれない。