隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

人間はなぜ歌うのか? -人類の進化における「うた」の起源

ジョーゼフ・ジョルダーニアの人間はなぜ歌うのか?(原題 Why Do People Sing? Music in Human Evolution)を読んだ。

タイトルに「歌う」とあるが、これは現代的な意味での「歌う」、あるいは我々がイメージしている「歌う」とは若干異なったものだ。もっと原始的な、叫びとか咆哮に近いようなものから発展してきた「歌う」をイメージすると当たらずと言えども遠からずだと思う。

本書は「歌の起源」に関する本だが、まず最初にモノフォニー(独唱)・ポリフォニー(合唱)の話題からスタートする。モノフォニー・ポリフォニーが世界でどのように分布しているのかを解説し、その次にどちらの方がより古くからあるのかに考察を移す。著者の考察によるとポリフォニーの方が古いということになる。一見これは「歌の起源」とは無関係に思われるのだが、実は次に展開する「歌の起源」に関係しているのだ。

著者は「歌の起源」を防御システムにあったと考察している。我々人類の祖先はスカベンジャーとして、ライオンなどから獲物を奪っていたというのだ。その時に二足歩行により体を大きく見せ、集団で声を上げることにより相手を威嚇していたのであろうと考察する。集団での舞踏により、戦闘トランスという特別な精神状況を作り出し、恐怖心を克服することに成功したと解説する。

本書の中で食人についても考察が加えられている。それは人類の祖先の生存戦略の一分であったというのだ。つまり肉食獣に捕獲された仲間をと執拗に取り返す行為が、肉食獣からの攻撃の抑止力になったと考察する。そして、死んだ人間の亡骸は食べるか・食べないかの二択しかなかったであろうと推測している。道具がなければ、死体を埋めることはできないからだ。死体をそのままにしておけば、他のスカベンジャーに持っていかれてしまう危険があり、その動物は人食いの習性を持つ可能性が高まる。そのため自分達で食べたのだという。

「歌の起源」とは直接関係ないが、クジャクの尾についての研究が紹介されていて、興味深かった。高橋麻理子氏を中心とする東京大学のメンバーがインドクジャクの尾の模様と生殖行動の調査を行った。その結果、尾の模様とは関係なく、実は鳴き声と関係しているということが分かったいうことだ。

lne.st

本書の「歌の起源」に関してはどのように受け入れられるかわからないし、真偽も定かではないが、興味深い研究だと思う。