隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

疾れ、新蔵

志水辰夫氏の「疾れ、新蔵」を読んだ。時代小説という体裁をとっているが、読んでみた印象では、どちらかというと冒険小説だと感じた。

目指すは越後岩船の春日荘。主人公の新蔵は酒匂家での須河幾一郎の急死の方に接し、かねてから打ち合わせていた通り、江戸から急ぎ帰国することになった。ただし、一つだけ予定外のことが起きる。十歳の志保姫を一緒に連れて帰ることになったのだ。志穂姫は、春日荘の主、小此木唯義の孫娘。小此木唯義の娘佐江に酒匂家の殿様の手が付き、産んだ子なのだが、当初酒匂家ではその志穂の存在を知らなかった。それがひょんなことから酒匂家は志穂のことを知り、そしてその美しい志保が後々縁組により酒匂家に利すると判断し、半ば奪うようにし、江戸に連れていった。それから三年が経過していた頃だった。

新蔵は幼い時から志保を知っており、酒匂家の中屋敷に挨拶に行った際、国に帰りたいという話を聞いていた。それで自分が火急な用で国に帰るときに、も一度志保に心変わりがないかと尋ねたら、やはり国に帰りたいという。それで、一緒に連れ帰ることになったのだが、運悪く中屋敷を出てすぐに足を挫いてしまい、歩いての旅は不可能になってしまった。一方、酒匂家では志穂姫がいなくなったことと、須河幾一郎の死と新蔵の出奔とから、そこに何かの陰謀があり、新蔵が志穂姫を拉致したのだと勘繰り、志穂姫の奪還と新蔵の襲撃のために、追っ手を差し向けるのだが、新蔵の方が一枚も二枚も上手で、新蔵一行の影は見え隠れするのだが、なかなか追いつけない。

新蔵は春日荘の三笠権現の社務所の用人で二十代半ば。武士ではないので、刀は差していないが、中に鉄を仕込んである木刀を持っている。この木刀の破壊力は絶大だ。 一方追っ手の中の羽村隆之は江戸屋敷で勘定方の役についているが、剣の腕を買われて追っ手に参加した。彼は新蔵・志穂姫に追いつき、話を聞いて、志穂姫が望んでの帰国だと知ると、心境が変化し、裏では彼らを助けようとするのだった。そうこうするうちに、酒匂家では第二の追っ手を送り出しており、その中にはいかにもな浪人兄弟が新蔵を亡き者にしようと迫っていくのだった。

物語は疾走感をもって語られていき、一気に読ませる。ただ、後半の方に「これはいるストーリーなのか?」という部分(春日荘の隣村の普賢村の秘密)はあるが、十分読み応えのあるストーリーだった。