隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

彼女がエスパーだったころ

宮内悠介氏の彼女がエスパーだったころを読んだ。本書は不思議な味わいのある短編集になっている。

収められているのは、「百匹目の火神」、「彼女がエスパーだったころ」、「ムイシュキンの脳髄」、「水神計画」、「薄ければ薄いほど」、「沸点」の六編だ。この短編のほとんどが疑似科学や迷信をテーマにしているので、アンチSFの様な感じになっている。主人公は記者で、不思議な出来ことを追って取材をして言っているところが物語の主軸になっているのだが、前半の三編と後半の三編では、主人公の立ち位置が単に取材しているものの視点から、物語の中に強く巻き込まれている状態へと変化していっている。それはあたかも取材することによって、事件に巻き込まれ、そして事件が変容していくような状況になってしまう。量子力学の観測により結果が変わってしまうかのような感じさえ受けてしまう。