隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

動的平衡2 生命は自由になれるのか

福岡伸一先生の「動的平衡2 生命は自由になれるのか」を読んだ。本書の出版は2011年なのでそれからもう6年も経過しているので、内容が古くなっているのかもしれない。できればこちらも新版として内容の加筆修正をしたものを出してもらえないだろうか?

アミノ酸の桶の理論

人体には20種類のアミノ酸から体を作るのに必要なタンパク質を合成している。そのために食べ物を食べているのだ。もし、このアミノ酸に不足が出来たらどうなるのか?アミノ酸のうちの11種類は細胞の中にある材料を使って補給することができる。しかし、9種類の必須アミノ酸は体内では補給できないので、タンパク質の合成をあきらめなければならない。そしてアミノ酸が不足した場合に不思議なことが起きる。例えば必須亜ものさんのリジンが不足すると、他のアミノ酸がいくらあっても、その余分にあるアミノ酸は体から抜け出してしまう。なので、たった一種類が不足しているからと言って、影響は軽微ではないのだ。

細菌たちのリベンジ(耐性菌)

抗生物質ペニシリンはカビの中から偶然発見され、人類に完全な勝利をもたらすかと思われたが、細菌たちは徐々にリベンジを開始した。ペニシリンに常時晒されていた細菌の内部で変化が起きたのだ。その変化とはペニシリンを分解しる酵素を生み出したのだ。この能力を身に着けた細菌はペニシリンが近くにあっても増殖することができる。

更に不思議なことが起きた。この新しい能力が瞬く間に他の細菌にも広がっていったのだ。ペニシリン分解酵素の遺伝子がある細菌から別な細菌に水平移動するのに重要な役割を果たしたのがプラスミドである。

例えば大腸菌の中には細胞分裂の際に複製され子孫に受け継がれるメインのDNA以外にプラスミドと呼ばれるメインのDNAではないDNAがある。これはメインのDNAから比べるとサイズはかなり小さいので、遺伝情報も少ない。しかし、メインのDNAが大腸菌内には1つしかないのに比べ、プラスミドは数個から数十個存在できる。そして、重要なのがこのプラスミドはある大腸菌から別な大腸菌に水平的に移動できるのだ。

エピジェネチックとマターナルRNA

新版 動的平衡: 生命はなぜそこに宿るのか - 隠居日録の「部分は全体の総和ではない」でも述べられていたタイミングの話がここでも登場する。話はヒトとチンパンジーの遺伝子の差から始まるのだが、その差はわずか2パーセントだ。ではその2パーセントに人を人たらしめる遺伝子があるのかというと、そうではないという。98%の同じ遺伝子がどのようにタイミングで活性化するのかにより、ヒトとチンパンジーの違いが生まれるのだと説明している。遺伝子の活性化のタイミングを制御する仕組みの受け渡しをエピジェネチックと呼ぶということだ。そのような制御をする物質のうちの一つがマターナルRNAだ。マターナルRNAがまず最初のスイッチとなって、それが新しいゲノムの働き方を決める。本書執筆時点では詳細は明らかになっていなかった。