隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

本人に訊く〈弐〉おまたせ激突篇

椎名誠氏・目黒孝二氏の本人に訊く〈弐〉おまたせ激突篇 を読んだ。本書は本人に訊く〈壱〉よろしく懐旧篇 - 隠居日録の続編で、あとがきを読むと本シリーズは全4冊を予定しているようだ。本書も椎名誠氏の全著作を盟友目黒孝二氏が読み、著者本人の椎名誠氏にインタビューをしたものをまとめた本であるが、本作でも著者本人が往々にして「忘れた」と回答する、いかにもな対談集だ。

まず、「鉄塔の人」に収録されている「妻」という作品を取り上げると、椎名氏は「全然おぼえていないなあ」と言い、目黒氏が作品のあらすじを語ると、

椎名 なるほどね。
目黒 あんたが書いた小説だからね(笑)。
椎名 俺が書きそうな話だなあってきているよ(笑)。

という感じ。また、「むはの哭く夜はおそろしい」という作品は最初本の雑誌社で出版され、その後角川文庫入りして「本などいらない草原暮らし」と改題している。なぜ改題されたのかは、きっとタイトルがなんだかよく判らないからだと思うのだが、

目黒 改題されるということはこのタイトルがひどいからで、それはおれも反省する(笑)。
椎名 ぜひそうしてほしい(笑)。

となっている。本の雑誌社からは「むは」とついている本が何冊も出版されているが、文庫化されるときはことごとく改題されているのだから、やはりひどいタイトルなのだろう。たとえば、「むはのむは固め」は「くねくね文字の行方」と改題され、

椎名 これ、もともとのタイトルがよくないんじゃないかな(笑)。
目黒 そうだね。むはのむは固めって何なの?
椎名 お前が作った本だぞ(笑)。

と作った本人もよく覚えていないのだ。

「黄金時代」という作品では、目黒氏がいい作品なのだがラストがよくないといい、それを受けて、

椎名 いや、そういう回があってもいいんだと思うよ。
目黒 作者の言い分も聞きましょう。
椎名 そうだなあ。まあ、書く前に言ってほしかったな(笑)。

というやりとりもいかにもと言った感じ。

「からいはうまい」という本では、

椎名 翌日肛門が痛いというんだから(笑)

と書いているが、実際私はこれを経験したことがある。排便するときにひりひりして、痛いのだ。

「ハリセンボンの逆襲」の文庫版の解説に、これまたおなじみの沢野ひとし氏が「高校一年の時に椎名が自主的に学級新聞的を作ったことがある」と書いていると発言すると、

椎名 なんだそれ?
目黒 何号も続いたっていうんだけど、そんなこと、初めて知った。
椎名 それは沢野の創作だな。
目黒 えっ、嘘なの!
椎名 あいつ、このシリーズの解説をずっと一人で書いているから、もうネタがないんだ。
目黒 とはいっても、だからといって嘘を書いちゃいかんでしょ。あなたも何も言わないの?
椎名 だって、いま初めて知ったもの。
目黒 困ったね。

となっていて、実は本になるときに著者がチェックしていないことが明かされる。

本の雑誌社の「新これもおとこのじんせいだ!」という本があり、テーマを決めて、それについて7人がエッセイを書くという形式の本なのだが、その時のテーマが、

  • 「恐怖」または「恐怖症」について
  • 「特異な料理」について
  • 「学校時代の思い出」について
  • 「ジンクス」「縁起」について
  • 「叶わなかった夢」について

だった。

椎名 そのテーマはどうやって決めたんだ?
目黒 あなたが決めたんだよ。前作もそうだったけれど。
椎名 安易だなあ。
目黒 それは言っちゃいけない(笑)。

この「本人に訊く」シリーズでもたびたび言及されているが、本の雑誌社の経済状況によりたびたび何かの本を出版することがあったようなのだが、この本もそんな一冊だったのかもしれない。前の本が割と楽にできたので、早くできると計算していたのだが、実際は2年ぐらいかかったようだ。

「秘密のミャンマー」では食べ物はあまりうまくなかったと椎名氏が言い、「ミャンマーといえばタナカだ」と発言する。

目黒 ミャンマーの女性が頬を中心として付ける日焼け止めね。タナカという木があるんだね。それを砥石のような石の上で水と一緒にワタビのように木質をおろし、それを顔に塗りつける。その習慣は十世紀ごろから始まっているんだって。インドが発祥地でそれがミャンマーまで伝わって、インドですたれた後もミャンマーには残っていると。
椎名 それがこの本に書かれているの?
目黒 あなたが書いたんですよ(笑)。いい本だよ(笑)。

と相変わらずの応酬がみられる。

「風のまつり」で目黒氏が「私小説でもなく、SFでもなく。恋愛小説でもない。本当の普通の小説」と言い、椎名氏が「本にしたくなかった」と受ける。実際この本は、雑誌連載から13年が経ってから、出版されているのだ。そして、

椎名 な、そうだろう。十三年間も止めてたんだ。一応俺にも良識があるんだよ(笑)。
目黒 だったら最後までこういうのは出しちゃだめだって(笑)。

また、一方で「誠の話」は和田誠氏との対談集で、雑誌掲載から10年後に出版されている。こちらは忘れていたから出版が遅れたということだ。この中の定期代の話で、「椎名が三か月で三万七千二百八十円、和田さんが半年で三万二百四十円。すると椎名が、あっ、七千四十円勝ったというくだりがある」と目黒氏が引用し、

目黒 なんでも勝ち負けを決めたがる椎名らしい発言なんだけれど、この場合の基準がわからない。定期代としてたくさんお金を使っている方が勝ちならば、そもそも椎名は三か月定期なんだから和田さんと同じ半年定期を勝ったら(原文ママ)金額はこの倍近くになる。だから圧倒的に勝ちで、七千四十円程度の勝ちじゃない。
椎名 お前の言っていることがわからない。
目黒 面倒くさいから、ま、いいや(笑)。

と投げ出してしまっている。

<壱>を読んだ2か月後に<弐>が出ていたのに気づいていなかったのだが、もしかすると、そろそろ<参>が出ることなのだろうか?次の<参>はなるべく間をおかずに読むとしよう。