タイトルからカムパネルラを主人公にした銀河鉄道の旅の描き直しなのかと思って読んだのだが、これはむしろ小説いうよりも、宮沢賢治評であろう。その点はちょっと期待外れだった。本書には「カムパネルラ版 銀河鉄道の夜」と「カムパネルラの恋」の二編が収録されていて、前半は銀河鉄道の夜を題材にしつつも、詩集、特に「春と修羅」から多数引用し、宮沢賢治が銀河鉄道の夜を書いている当時の心境に迫ろうとしている。一応本書は物語的な体裁をとっていて、銀河通信社の記者がカンパネルラと何らかの方法で通信した様子を速記取材したというスタイルで物語が始まる。そこに、どこかから中原宙也が電波ジャック的に割り込んで、かってに自説を語っていくという展開になっている。そして、銀河鉄道の夜だけでなく、宮沢賢治の恋について掘り下げられているのだ。ここで語られる宮沢賢治の恋については、今まで全然知らないことだったので、ちょっと驚いたのと、やはりというか、後年宮沢賢治をあまりにも神聖視してしまっているきらいがあるのではないかということ感じた。宮沢賢治も人間であり、暗い面も持ち合わせていても不思議ではないだろう。
「カムパネルラの恋」は中原宙也が銀河通信社を訪れて自説を開帳するという形式になっているのだが、こちらで語られるのも宮沢賢治にまつわる四つの恋の話。巻末の初出一覧を見るとこちらの方が先に発表されたようで、ここで評論しきれなかった部分を「カムパネルラ版 銀河鉄道の夜」に書いたのだろうか。
いずれにしても、読む前に期待したものとは違っていたが、ここで書かれていることで宮沢賢治に関する新しい視点を得ることができた。