隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

2020-01-01から1年間の記事一覧

江戸染まぬ

青山文平氏の江戸染まぬを読んだ。本書は短編集で、「次々の小袖」、「町になかったもの」、「剣士」、「いたずら書き」、「江戸染まぬ」、「日和山」、「台」の七編が収録されている。よくわからぬという感想を抱いたものが何篇かある。「いたずら書き」と…

『七人の侍』ロケ地の謎を探る

高田雅彦氏の『七人の侍』ロケ地の謎を探るを読んだ。2020年は黒澤明生誕110年、三船敏郎生誕100年の年なのだという。その割には世間的には関連するイベントは特に行われていないような気がするのだが、私が気づいていないだけなのだろうか。私が気づいたの…

影を呑んだ少女

フランシス・ハーディングの影を呑んだ少女 (原題 A SKINFUL OF SHADOWS)を読んだ。本物語の主人公はメイクピースという名の少女で、母親と一緒にロンドン近郊のポプラの町におじ・おばの所に居候していた。ある日母と一緒にロンドンに行ったときに暴動に巻…

砂と人類 いかにして砂が文明を変容させたか

ヴィンス・バイザーの砂と人類(原題 THE WORLD IN A GRAIN The Story of Sand and How It Transformed Civilization)を読んだ。この本を読む前は、砂漠化する大地と人類との攻防について書かれているのかと思ったが、それについても書かれていたが(第9章)、…

飼いならす――世界を変えた10種の動植物

アリス・ロバーツの飼いならす――世界を変えた10種の動植物(原題 Tamed: The species that changed our world)を読んだ。ある種反穀物の人類史――国家誕生のディープヒストリー - 隠居日録やコロンブスの不平等交換 作物・奴隷・疫病の世界史 - 隠居日録にも通…

この本を盗む者は

深緑野分氏の「この本を盗む者は」を読んだ。この本を読む前は知らなかったのだが、ブック・カース(book curse)という言葉があるようだ。ヨーロッパ中世の頃、本の盗難を防ぐために本にかけられた呪いの事のようだが、その起源は紀元前にさかのぼるという。…

不純文学 1ページで綴られる先輩と私の不思議な物語

斜線堂有紀氏の不純文学 1ページで綴られる先輩と私の不思議な物語を読んだ。私は三日おきに記憶をなくすようになったようなのだが、先輩は30分で記憶をなくすという。この物語は30分のうちの3分で先輩が先輩で、私が後輩であることを教える物語だ。タイトル…

日本史サイエンス 蒙古襲来、秀吉の大返し、戦艦大和の謎に迫る

播田安弘氏の日本史サイエンス 蒙古襲来、秀吉の大返し、戦艦大和の謎に迫るを読んだ。データを積み上げて、歴史的な出来事を分析して、考察する試みで、数値で裏付けをすることで、説得力を与えている。扱っているのは、元寇、秀吉の中国大返し、戦艦大和だ…

どうかこの声が、あなたに届きますように

浅葉なつ氏の「どうかこの声が、あなたに届きますように」を読んだ。この本は北上ラジオ第20回で紹介されていた。 構成よし! 人物造形よし!! 素晴らしい小説を見つけたぞ!!!(一年遅れで…)『どうかこの声が、あなたに届きますように』浅葉なつ(文春文庫)…

図書室のバシラドール

竹内真氏の図書室のバシラドールを読んだ。直原高校の図書室で司書をすることになった高良詩織の「図書室のxx」シリーズの3作目。1作目、2作目を読んだのは2年半も前で、まさか、3作目が出るとは思っていなかった。このシリーズは高校の司書を務める高良詩織…

建国神話の社会史-虚偽と史実の境界

古川隆久氏の建国神話の社会史-虚偽と史実の境界を読んだ。建国神話とは日本書紀の巻第二神代下にある、天照大神が孫の瓊瓊杵尊を葦原の中つ国に降させ、その後その子孫の彦火火出見が即位して、神武天皇になったという伝説である。そして、その中に「一書に…

里奈の物語

鈴木大介氏の里奈の物語を読んだ。北上ラジオの第10回で紹介されていた。 『里奈の物語』を読むべし! 本の雑誌 Presents 北上ラジオ 第10回 - YouTube北関東の町で育った高橋里奈という少女が夜の世界でのし上がっていく話なのだが、彼女も彼女の周りの人間…

7分間SF

草上仁氏の7分間SFを読んだ。本書はSF短編小説で、11編収められている。90年代の作品が4作、00年代の作品が6作で、書下ろしが1作という割合。コメディタッチだったり、ブラックユーモアたっだり色々多彩な作品が収められている。5分間SFと比べると、ページ数…

楽園とは探偵の不在なり

斜線堂有紀氏の楽園とは探偵の不在なりを読んだ。この小説は、 一人を殺しても地獄に堕ちないが、二人殺せば地獄行き という特殊な世界を舞台にしたミステリーだ。二人の人を殺すと、どこからか天使がやってきて、燃え盛る地面に押さえ込んで、地獄に引きず…

アメリカン・ブッダ

柴田勝家氏のアメリカン・ブッダを読んだ。柴田氏の小説は単なるSFというよりも、観念的なSFだと読むたびに感じる。本書は短編集で、「雲南省スー族におけるVR技術の使用例」、「鏡石異譚」、「邪義の壁」、「一八九七年:龍動幕の内」、「検疫官」、「アメ…

戦場のコックたち

深緑野分氏の戦場のコックたちを読んだ。この本は単行本が出版されたときに、確か本の雑誌でも取り上げられていて、おもしろそうだと思った記憶があり、読もうと思った記憶もあるのだが、今まで読んでいなかった。すっかり忘れていたのだ。単行本の出版が201…

スワン

呉勝浩氏のスワンを読んだ。改めて今年坂口安吾の不連続殺人事件を読んで、「心理のミステリー」という言葉を再発見してよかった。この小説も心理の小説なのだ。この小説の構造自体はシンプルだ。埼玉県にある巨大ショッピングモール「スワン」で無差別銃撃…

アンダードッグス

長浦京氏のアンダードッグスを読んだ。この作品は北上ラジオの第21回で紹介されていた。長浦京の『アンダードッグス』(KADOKAWA)は息つく暇のない手に汗握る小説だ!【北上ラジオ#21】 - YouTubeどんな小説かと一口に言うのも難しいが、ある種のアクション…

君に読ませたいミステリがあるんだ

東川篤哉氏の君に読ませたいミステリがあるんだを読んだ。三度目の恋ヶ窪学園を舞台にしたミステリーだ。だが、今回は探偵部ではなく、第二文芸部が舞台になっている。第二文芸部とは何か?実践的な活動を本分とし、最終的にはプロとして作家デビューをする…

果てしなき輝きの果てに

リズ・ムーアの果てしなき輝きの果てに(原題 LONG BRIGHT RIVER)を読んだ。この作品は北上ラジオの第18回で紹介されていた。小説を読む醍醐味がつまった『果てしなき輝きの果てに』リズ・ムーア(早川書房)を寝食忘れて一気読みだ! - YouTubeハヤカワポケ…

カメの甲羅はあばら骨 ~人体で表す動物図鑑~

川崎悟司氏のカメの甲羅はあばら骨を読んだ。地球上の生物には共通の形態があり、種が変わればその形態に違いがある。しかし、種が変わっても基本的な構造には共通性があるということが改めて分かる本だ。タイトルがそのものズバリを表してるが、カメの甲羅…

鬼棲むところ 知らぬ火文庫

朱川湊人氏の鬼棲むところ 知らぬ火文庫を読んだ。今回の知らぬ火文庫は主に今昔物語を原典として、それに収録されている鬼に関する物語を基に組み立てられている。収録されているのは「鬼一口(伊勢物語 芥川/今昔物語 在原業平中将の女、鬼に噉らわるること…

狐と韃 知らぬ火文庫

朱川湊人氏の狐と韃 知らぬ火文庫を読んだ。日本霊異記(正式名称 日本国現報善悪霊異記)を基にして、それを大胆にアレンジして物語にしたのが本書である。短編集で、全八話収録されており、それぞれのタイトルは「サカズキというなの女」(狐を妻として子を生…

からころも 万葉集歌解き譚

篠綾子氏のからころも 万葉集歌解き譚を読んだ。朝日新聞の書評のページにこの本が紹介されていた。book.asahi.com (2)の舞台は江戸日本橋。失踪した薬種問屋の手代が日記に残した『万葉集』ゆかりの和歌が、思いがけぬ謎解きの鍵となる。父の行方を求め…

恋に至る病

斜線堂有紀氏の恋に至る病を読んだ。私も詳しくは知らないが「青いクジラ」をモチーフとした作品だ。Blue Whale Challengeはロシア発祥とされ、参加者を自殺に導いたと言われている。本書では「青いクジラ」というサイトは青い蝶(ブルーモルフォ)と名前を変…

これはミステリではない

竹本健治氏のこれはミステリではないを読んだ。相変わらずトリッキーな作品だ。宝条大学のミステリクラブは大学が保有する保養所で例年合宿を開いていた。保養所は深い森に囲まれた湖の小島にポツン建っており(といっても島は孤立しているわけではなく、細長…

明日の僕に風が吹く

乾ルカ氏の明日の僕に風が吹くを読んだ。川嶋有人は中学生時代に昼休みに遊んでいて急に倒れてしまった同級生の女子を助けようとしてのだが、全く何もできず、彼女の吐いた吐瀉物を見て、自分も吐いてしまった。その女子は食物アレルギーがあり、その発作だ…

水を縫う

寺地はるな氏の水を縫うを読んだ。この作品は北上ラジオの第17回目で紹介されていた。傑作だらけの寺地はるなの最新刊『水を縫う』を読もう! - YouTube6人の家族の物語と帯には書かれているが、父(離婚して別居)、母、姉、弟、祖母の5人家族で、残りの一人…

三体Ⅱ 黒暗森林

劉慈欣氏の三体Ⅱ 黒暗森林を読んだ。タイトルをパット見て、「暗黒…」だと思い込んでいたが、よく見たら「黒暗…」だった。三体Ⅱ では三体人が地球に侵略することが明らかになった世界で、「危機紀」という新たな紀年が定義されている世界になっている。国連…

パラ・スター 〈Side 宝良〉

阿部暁子氏のパラ・スター 〈Side 宝良〉を読んだ。本書は北上ラジオ第14回で紹介されていた。泣ける小説なんてもんじゃない。涙があふれ続ける小説なのだ! 阿部暁子『パラ・スター』を読むべし(電車の中以外で)!「北上ラジオ」第14回 Presented by 本の…