隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

読書

幽玄F

佐藤究氏の幽玄Fを読んだ。今までの作品とは全然テイストが違う作品だった。前作のテスカトリポカの血腥い小説から比べると爽やかな小説だ。この小説は三島由紀夫の豊饒の海に触発されて書かれたという事なのだが、私は豊饒の海だけでなく、一切の三島由紀夫…

27000冊ガーデン

大崎梢氏の27000冊ガーデンを読んだ。本書は高校の学校司書を主人公にした日常のミステリだ。27000冊というのは大体高校の図書室(本書の中では一貫して図書館と呼んでいるが、独立した建物ではないので図書館と呼ぶのはちょっと奇妙に感じた)にある本の冊数…

時間旅行者のキャンディボックス

ケイト・マスカレナスの時間旅行者のキャンディボックス (原題 THE PSYCHOLOGY OF TIME TRAVEL) を読んだ。1967年12月、イギリスの4人の科学者がタイムマシンを完成させた。その科学者とは、宇宙物理学者のマーガレット・ノートン、電波の研究者のルシール・…

レモンと殺人鬼

くわがきあゆ氏のレモンと殺人鬼を読んだ。本書はミステリーというよりはサスペンスなのだろう。小林美桜は妹の妃奈が遺体で発見されたことを警察に告げられた。しかも妹は全身を数十カ所刺されて殺されたらしい。美桜にとっては家族が殺されたのはこれで2度…

ラウリ・クースクを探して

宮内悠介氏のラウリ・クースクを探してを読んだ。エストニア人のラウリ・クースクという架空の人物の伝記だというのを聞いて、興味を持ったので、読んでみた。ラジオ文芸館スペシャル宮沢賢治生誕120年 - 隠居日録にも書いたが、架空の人物の伝記というと宮…

黄金比の縁

石田夏穂氏の黄金比の縁を読んだ。このタイトルの黄金比とは、顔にあるそれぞれのパーツの比率のことだ。縦方向には、髪の生え際-眉間-鼻先-顎が等間隔にあること。横方法にはこめかみ-目尻-目頭-目頭-目尻-こめかみが等間隔で並んでいること。この黄金比に…

アンリアル

長浦京氏のアンリアルを読んだ。内閣府国際平和協力本部事務局分室国際交流課二係というところにひょんなことからスカウトされた警視庁のはみだし警察官見習の沖野修也の物語。国際交流課は非合法組織で、国のスパイ活動に従事している。場合により諜報も防…

エレファントヘッド

白井智之氏のエレファントヘッドを読んだ。本書は特殊設定のミステリーなのだが、その設定というのがちょっと予想もしないものだった。ネタバレ厳禁となっているので、書くのがはばかられる。プロローグで文哉という妄想症の精神病患者が出てきたので、そこ…

ジェネシス・マシン 合成生物学が開く人類第2の創世記

エイミー・ウエブ、アンドリュー・ヘッセルのジェネシス・マシン 合成生物学が開く人類第2の創世記 (原題 THE GENESIS MACHINE)を読んだ。この本もタイトルに釣られて読んだのだ。特に合成生物学の辺りに惹かれたのだが、以前読んだ合成生物学の衝撃 - 隠居…

木曜組曲

恩田陸氏の木曜組曲を読んだ。耽美派小説の大家重松時子は木曜日が好きだと言っていた。その時子は2月の第二週の木曜日に亡くなり、それ以来毎年その木曜日を挟んで3日間、時子をしのぶために時子が住んでいたうぐいす館に集う女たち。時子の異母姉妹の静子…

本の背骨が最後に残る

斜線堂有紀氏の本の背骨が最後に残るを読んだ。本書は異形コレクションに掲載された短編を集めた短編集だ。私は異形コレクションを読んだことがないのだが、ホラーとか幻想小説のアンソロジーだと理解している。なので、本書もそういう作風の短編が収録され…

夜果つるところ

恩田陸氏の夜果つるところを読んだ。鈍色幻視行の中で言及されている小説で、飯合梓が書いたことになっているが、流石に本当の外側のカバーは恩田陸著、集英社刊になっているが、中を見ると、飯合梓著、照隅社刊になっている。ジャンル分けがよくわからない…

付き添うひと

岩井圭也氏の付き添うひとを読んだ。タイトルの付き添うひと(付添人)とは何かというと、犯罪を犯した少年が家庭裁判所で審判を受けるときに、少年の権利を擁護・代弁し、手続きや処遇の決定が適正に行われるように裁判所に協力する人で、通常は弁護士がなる…

思考実験 科学が生まれるとき

榛葉豊氏の思考実験 科学が生まれるときを読んだ。本書の前半で思考実験とはどのようなものかを説明しているのだが、科学者はなぜ神を信じるのか コペルニクスからホーキングまで - 隠居日録に関する別な観点・著者からの言及もあった。キリスト教には「自然…

最後の語り部

ドナ・バーバ・ヒグエラの最後の語り部 (原題 THE LAST CUENTISTA)と呼んだ。原題にあるcuentistaという単語には全くなじみがなかったので、調べてみたら、スペイン語で「語り部」という意味だった。この小説の主人公ペトラはニューメキシコ州に住む13歳の少…

南海トラフ地震の真実

小沢慧一氏の南海トラフ地震の真実を読んだ。この本の内容はかなり衝撃的だ。中日新聞や東京新聞に記事として書かれていたらしいのだが、全く見た記憶がない。忘れてしまったのかとも思ったのだが、自分のはてなブックマークを探しても、ブックマークしてい…

霜月記

砂原浩太朗氏の霜月記を読んだ。本作は架空の藩神山を舞台にした時代小説だ。主人公は弱冠十八歳の青年草壁総次郎。物語はその総次郎が遊里にある賢木という料亭を訪ねるところから始まる。実はこの料亭の離れに隠居した総次郎の祖父が5年前から住んでいるの…

中世イングランドの日常生活: 生活必需品から食事、医療、仕事、治安まで

トニ・マウントの中世イングランドの日常生活: 生活必需品から食事、医療、仕事、治安まで (原題 How to Survive in Medieval England) を読んだ。本書はタイムトラベルが可能になり、中世のイングランドに行ったときに不便にならないようにするためのガイド…

私雨邸の殺人に関する各人の視点

渡辺優氏の私雨邸の殺人に関する各人の視点を読んだ。クローズドサーキット物で、土砂崩れで隔絶された山荘で起きる殺人事件のミステリーだ。ミステリー同好会の大学生が事件に巻き込まれて、謎解きに乗り出すというような、典型的な舞台設定のミステリーに…

君の教室が永遠の眠りにつくまで

鵺野莉紗氏の君の教室が永遠の眠りにつくまでを読んだ。本作は第42回横溝正史ミステリ&ホラー大賞の優秀賞受賞作だ。この作品も特殊設定の作品で、どのような特殊設定かを書いてしまうとネタバラシになるので書けない。舞台は北海道の不思子町で、そこに暮ら…

我が友、スミス

石田夏穂氏の我が友、スミス を読んだ。スミスとは何ぞやというと、筋トレマシーンのようだ。バーベルの左右にレールがついているので、その軌道でしか動かなく、安全にトレーニングできるという。多分持ち上げられなくなったときに、ふらつかないことがメリ…

鈍色幻視行

恩田陸氏の鈍色幻視行を読んだ。事故・事件により2度の映画化が頓挫し、その後の2度の映像化も問題が発生して、製作途中でお蔵入りしたいわくつきの小説「夜果つるところ」の関係者がクルーズ船に乗り、横浜からベトナムまでを往復する旅に出る。その旅に関…

読み書きの日本史

八鍬友広氏の読み書きの日本史を読んだ。本書は読み書きの実践がどのように行われてきたのかという事を解説した本である。文字の成立から、文字がどのように教えられてきたのかという事を明治時代までの時間軸で概説している。 寺子屋という名称 江戸時代の…

虎と十字架 南部藩虎騒動

平谷美樹氏の虎と十字架 南部藩虎騒動を読んだ。まさにタイトルの通り「虎」と「十字架」の物語だった。慶長十二(1607)年南部利直は駿府の家康に拝謁し二匹の虎を下賜された。そのうちの一頭が寛永二(1625)年冬に死んだ。この時この小説にあるように虎が籠か…

最後の鑑定人

岩井圭也氏の最後の鑑定人を読んだ。本書は民間の法科学鑑定会社を営む土門誠を主人公にしたミステリーだ。土門誠は警視庁の科捜研にいたがある事件の鑑定をきっかけに警視庁を辞め、土門鑑定事務所を立ち上げた。刑事・民事を問わず中立的な立場で科学鑑定…

十三夜の焔

月村了衛氏の十三夜の焔を読んだ。天明から天保へかけて50年以上の時間スケールで活写する時代小説。天保四(1784)年五月の十三夜の夜に幣原喬十郎は匕首を手にした男と側に倒れる男女を見た。倒れている男女は血に塗れていて、見るからに殺されたと思われた…

野火の夜

望月諒子氏の野火の夜を読んだ。血の付着した旧型の五千円札があちらこちらから出てきた。ただ血が付着しただけの五千円札だけなら、犯罪の匂いがするが、それだけで罪には問えないだろう。しかし枚数が増えてきて、総額200万円となり、番号もそろっていると…

揺籃の都

羽生飛鳥氏の揺籃の都を読んだ。これは蝶として死す - 隠居日録の第二作目で、今回の時間軸は治承4(11890)年の福原遷都の直後に巻き戻る。平頼盛は平清盛からある人探しを命じられた。それは源雅頼に仕える青侍で、この青侍が不吉な夢の噂を広めていることに…

アイダホ

エミリー・ラスコヴィッチのアイダホを読んだ。内容の分からない本を内容がわからないまま読むことはあるが、それは本の著者を知っている場合だ。その作者の作品ならば読むべきだろうという単純な思考だ。しかし、全く知らない著者の本はそうはいかず、少な…

標本作家

小川楽喜氏の標本作家を読んだ。何と表現したらいいのかわからない不思議な小説だ。色々なストーリーが詰め込まれていて、ちょっと整理しないとなかなか理解が追い付かず、これは読みにくい小説なのではないかと思った。読み終わった後も、これをどのように…