隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

鈍色幻視行

恩田陸氏の鈍色幻視行を読んだ。事故・事件により2度の映画化が頓挫し、その後の2度の映像化も問題が発生して、製作途中でお蔵入りしたいわくつきの小説「夜果つるところ」の関係者がクルーズ船に乗り、横浜からベトナムまでを往復する旅に出る。その旅に関…

読み書きの日本史

八鍬友広氏の読み書きの日本史を読んだ。本書は読み書きの実践がどのように行われてきたのかという事を解説した本である。文字の成立から、文字がどのように教えられてきたのかという事を明治時代までの時間軸で概説している。 寺子屋という名称 江戸時代の…

虎と十字架 南部藩虎騒動

平谷美樹氏の虎と十字架 南部藩虎騒動を読んだ。まさにタイトルの通り「虎」と「十字架」の物語だった。慶長十二(1607)年南部利直は駿府の家康に拝謁し二匹の虎を下賜された。そのうちの一頭が寛永二(1625)年冬に死んだ。この時この小説にあるように虎が籠か…

最後の鑑定人

岩井圭也氏の最後の鑑定人を読んだ。本書は民間の法科学鑑定会社を営む土門誠を主人公にしたミステリーだ。土門誠は警視庁の科捜研にいたがある事件の鑑定をきっかけに警視庁を辞め、土門鑑定事務所を立ち上げた。刑事・民事を問わず中立的な立場で科学鑑定…

十三夜の焔

月村了衛氏の十三夜の焔を読んだ。天明から天保へかけて50年以上の時間スケールで活写する時代小説。天保四(1784)年五月の十三夜の夜に幣原喬十郎は匕首を手にした男と側に倒れる男女を見た。倒れている男女は血に塗れていて、見るからに殺されたと思われた…

野火の夜

望月諒子氏の野火の夜を読んだ。血の付着した旧型の五千円札があちらこちらから出てきた。ただ血が付着しただけの五千円札だけなら、犯罪の匂いがするが、それだけで罪には問えないだろう。しかし枚数が増えてきて、総額200万円となり、番号もそろっていると…

揺籃の都

羽生飛鳥氏の揺籃の都を読んだ。これは蝶として死す - 隠居日録の第二作目で、今回の時間軸は治承4(11890)年の福原遷都の直後に巻き戻る。平頼盛は平清盛からある人探しを命じられた。それは源雅頼に仕える青侍で、この青侍が不吉な夢の噂を広めていることに…

アイダホ

エミリー・ラスコヴィッチのアイダホを読んだ。内容の分からない本を内容がわからないまま読むことはあるが、それは本の著者を知っている場合だ。その作者の作品ならば読むべきだろうという単純な思考だ。しかし、全く知らない著者の本はそうはいかず、少な…

標本作家

小川楽喜氏の標本作家を読んだ。何と表現したらいいのかわからない不思議な小説だ。色々なストーリーが詰め込まれていて、ちょっと整理しないとなかなか理解が追い付かず、これは読みにくい小説なのではないかと思った。読み終わった後も、これをどのように…

江戸の宇宙論

池内了氏の江戸の宇宙論を読んだ。本書は志筑忠雄(筑の字の凡が卂になっているのが正しい字体)と山片蟠桃についての評伝である。山片蟠桃は名前になんとなく記憶があったが、志筑忠雄には全然記憶がなかった。しかし、志筑忠雄は鎖国論を翻訳した元オランダ…

科学者はなぜ神を信じるのか コペルニクスからホーキングまで

三田一郎氏の科学者はなぜ神を信じるのか コペルニクスからホーキングまでを読んだ。この本も若干本のタイトルと内容が一致していないという印象を受けた。少なくとも科学者と言われている人たちがなぜ神を信じるのかに関して明確には主張している文書等は存…

CF

吉村萬壱氏のCFを読んだ。罪の責任を取る必要がない「無化」を行ってくれる超巨大企業CFの物語。一体どのようにして無化するのかというのは、本書の中で説明されている。 二十一世紀の初頭、ルーマニアの頭脳集団「トランシルバニアの盾」に金の雨が降り(註 …

サーカスから来た執達吏

夕木春央氏のサーカスから来た執達吏を読んだ。タイトルの「執達吏しったつり」という言葉になじみがなく、何のことかと調べてみると、執行官の古い言い方の様なのだが、この小説においては借金取りの事を指している。表紙絵の真ん中に描かれているのがそう…

明暦の大火: 「都市改造」という神話

岩本馨氏の明暦の大火: 「都市改造」という神話を読んだ。明暦の大火は明暦三年正月十八日から二十日にかけて発生した。これを西暦に変換すると1657年3月2から4日となり、江戸幕府が開けてから約半世紀後の早春に起きた火災であることがわかる。この大火災の…

五色の殺人者

千田理緒氏の五色の殺人者を読んだ。高齢者向けの介護施設で利用者の老人が撲殺された。後で判明するのだが、廊下を走る犯人と思れる人物の姿を部屋の中から目撃した人々の証言は異なっていたのだ。犯人の服の色は「赤」、「緑」、「白」、「黒」、「青」と…

答えは市役所3階に 2020心の相談室

辻堂ゆめ氏の答えは市役所3階に 2020心の相談室を読んだ。立倉市役所に「2020心の相談室」が開設され、晴川あかりと正木昭三が相談員として、悩み事や心理カウンセリングすることになった。時はまさにコロナが世に蔓延し始めたころで、みんなが精神…

風よ僕らの前髪を

弥生小夜子氏の「風よ僕らの前髪を」を読んだ。蝶の墓標が面白かったので、早速第一作目も読んでみた。この作品は第30回鮎川哲也賞優秀賞受賞作だ。若林悠希は伯母の高子からある事件の捜査の依頼を受けた。高子の夫で元弁護士の立原恭吾は朝早く犬の散歩中…

蝶の墓標

弥生小夜子氏の蝶の墓標を読んだ。本の表紙の裏のあらすじには、 数年前奇妙な自殺を遂げたかっての同級生の死の調査をする中で、 自殺した少年・要は夏野の痣の絵を描いたという理由でいじめを受け、それを苦に自殺を選んだと思われていた。 というようなこ…

話を戻そう

竹本健治氏の話を戻そうを読んだ。この小説はどのように形容してよいのか、また、どのような小説であるのか説明するのが難しい。物語は佐賀鍋島家十代藩主直正の別邸から始まる。ほどなくして、作者は物語の舞台である幕末の状況について鍋島家を中心に語っ…

言語の本質-ことばはどう生まれ、進化したか

今井むつみ氏、秋田喜美氏の言語の本質-ことばはどう生まれ、進化したかを読んだ。本書は言語の成り立ちについてオノマトペを手掛かりに展開し、仮説を提出している。本書に記号接地問題が書かれているというのを知って、読んでみた。以前東京大学の松尾先生…

一八世紀の秘密外交史:ロシア専制の起源

カール・マルクスの一八世紀の秘密外交史:ロシア専制の起源(原題 Secret Diplomatic History of the Eighteenth Century)を読んだ。マルクスといえば資本論を思い浮かべるが、今までどの本も読んだことがなかった。この本も今の一連のロシアの状況に刺激を…

われら古細菌の末裔: 微生物から見た生物の進化

二井一禎氏のわれら古細菌の末裔: 微生物から見た生物の進化を読んだ。私の子どもの頃は生物は動物と植物の2つに分類されるとされていた。これがいつの頃からか全く用いられなくなり、実はそのことに気付いたのはここ数年のことだ。実際ミドリムシなどは葉緑…

空想の海

深緑野分氏の空想の海を読んだ。本書は短編集である。巻末の初出一覧を見ると、2013年から2022年までの作品が収録されていて、多分今まで本に収録されなかった短編を集めたのではないかと想像している。というのも、収録されている作品に統一したテーマやジ…

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2024年2月17日追記 nitter.netは証明書の更新を止めたようで、サービスしているかどうかわからないが、未だに動いているパブリックインスタンスもある。Nitter Instance Health 2023年8月19日追記 nitter.netは復活したようだ。 2023年8月16日追記 looks lik…

ウクライナ戦争と向き合う ― プーチンという「悪夢」の実相と教訓

井上達夫氏のウクライナ戦争と向き合う ― プーチンという「悪夢」の実相と教訓を読んだ。本書が出版されてからすでに半年以上たっているが、まだ戦争は継続している。このブログを書いている時点で、ワグネルの反乱が起き、あっという間に収束するという全く…

戦争とオカルティズム 現人神天皇と神憑り軍人

藤巻一保氏の戦争とオカルティズム 現人神天皇と神憑り軍人を読んだ。以前読んだ建国神話の社会史-虚偽と史実の境界 - 隠居日録と対になる内容で、こちらの本は建国神話を国に蔓延させ、押し付けた軍人に関して書かれている。建国神話などは普通の感覚ではあ…

キツネ狩り

寺嶌曜氏のキツネ狩りを読んだ。この作品は特殊設定ミステリーというか、サイコサスペンスというか、あまり分類する必要はないとは思うが、純粋な謎解きのミステリーではない。主人公は尾崎冴子という警察官で、3年前に婚約者とタンデムツーリングをしていた…

法治の獣

春暮康一氏の法治の獣を読んだ。本書は短編集で、「主観者」、「法治の獣」、「方舟は荒野をわたる」の3編が収録されている。どの作品も人類と異星に生息する生命体との接触(異星生命体にとっては多分ファーストコンタクトであろうが、人類から見た場合それ…

友が消えた夏 終わらない探偵物語

門前典之氏の友が消えた夏 終わらない探偵物語を読んだ。これはよくできた構成のミステリーだ。現在と過去が目まぐるしく交錯して、作者の目晦ましに見事はまってしまった。現在(2007年の夏)の時点では、ある手記をもとに探偵の蜘蛛手が過去に起きた演劇部部…

「木」から辿る人類史: ヒトの進化と繁栄の秘密に迫る

ローランド・エノスの「木」から辿る人類史: ヒトの進化と繁栄の秘密に迫る (原題 The Age of Wood: Our Most Useful Material and the construction of Civilization)を読んだ。本書はわれわれヒトと木がどれほど密接に関係しいるかという事を解説している…