隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

バールの正しい使い方

青本雪平氏のバールの正しい使い方を読んだ。小学生の要目礼恩は父親の都合で転校を繰り返していた。この物語は彼が転校先の学校で遭遇した事件に関するミステリーの連作小説になっている。収録されているのは「狼とカメレオン」、「タイムマシンとカメレオ…

藩邸差配役日日控

砂原浩太朗氏の藩邸差配役日日控を読んだ。本書は神宮司藩の江戸屋敷で差配役の頭を勤める里村五郎兵衛が主人公の時代小説だ。神宮司藩も差配役も作者が考え出した架空の設定だ。差配役とはいわば江戸屋敷の何でも屋のような役回りで、それぞれの役割の専従…

残された人が編む物語

桂望実氏の残された人が編む物語を読んだ。行方不明者捜索協会という民間の会社に勤める西山静香が出会った様々な理由で行方知れずになった人を探す人の物語が本書で、連作短編集になっている。収録作品は「弟と詩集」、「ヘビメタバンド」、「最高のデート…

老虎残夢

桃野雑派氏の老虎残夢を読んだ。本作は第67回江戸川乱歩賞受賞作で、読もうと思っていたのだが、何となく後回しになっていた。この小説は12世紀ごろの中国が舞台になっている。武侠小説 x 百合 x 特殊設定ミステリーという組み合わせの小説で、この作品を読…

僕が死んだあの森

ピエール・ルメートルの僕が死んだあの森 (原題 TROIS JOURS ET UNE VIE)を読んだ。あらすじを読むと「12歳の少年が隣家の6歳の少年を殺した」という心理サスペンスの様だ。そして、この「僕が死んだあの森」というタイトルだと、「僕」は殺された6歳の少年…

一冊でわかるドイツ史

関眞興氏の一冊でわかるドイツ史を読んだ。文明交錯 - 隠居日録に神聖ローマ帝国の皇帝が出ていて、そういえば神聖ローマ帝国とはどいういきさつでできたのかもうすっかり忘れていることに気付いた。神聖ローマ帝国といえばハプスブルク家で、文明交錯でも登…

江戸の女子旅―旅はみじかし歩けよ乙女―

谷釜尋徳氏の江戸の女子旅―旅はみじかし歩けよ乙女―を読んだ。この現代的なタイトルを見て、「江戸時代に若い女性だけの旅はないだろう。どんなことが書かれているのだろう?」と思って、読んで見た。このタイトルはミスリードだ。著者にはそのような意図が…

人間性の進化的起源: なぜヒトだけが複雑な文化を創造できたのか

ケヴィン・レイランドの人間性の進化的起源: なぜヒトだけが複雑な文化を創造できたのか (原題 Darwin's Unfinished Symphony)を読んだ。ヒト(だけではなく他の霊長類や哺乳類)がどのように知的生物に進化したかという事を多数の研究事例を参照しながら解説…

鯉姫婚姻譚

藍銅ツバメ氏の鯉姫婚姻譚を読んだ。タイトルを見るとわかるが、手短に言うとこれは異類婚姻譚の形式の物語を包含した物語になっていて、構造はマトリョーシカのようになっている。ただ、物語の語りは外側からにはなっていない。物語の主人公は孫一郎という…

学校では教えてくれない! 英文法の新常識

鈴木希明氏の学校では教えてくれない! 英文法の新常識を読んだ。私が学校で英語を学んだのはもう40年以上前なので、教えられたこと・覚えていることは今とはもうずいぶん違っているとは思う。 whomは使わない これは何となく気が付いていた。"Whom did you i…

回樹

斜線堂有紀氏の回樹を読んだ。巻末の初出一覧によると2021年から2022年にかけてSFマガジンに掲載されたものと書下ろし1編が本書には収録されている。全部で6編からからなる短編集である。収録作品は「回樹」、「骨刻」、「BTTF葬送」、「不滅」、「奈辺」、…

文明交錯

ローラン・ビネの文明交錯 (原題 CLVILIZATIONS)を読んだ。実は最初にこの本の紹介を見て面白そうだと思い、過去の作品を見た。そうしたら、過去の作品も面白そうだったので、順番に読み進めてた。そして、ようやく本作に辿り着いた。もちろんそれぞれの作品…

別れの色彩

ベルンハルト・シュリンクの別れの色彩 (原題 Abschiedsfarben)を読んだ。本書は短編集で、「人工知能」、「アンナとのピクニック」、「姉弟の音楽」、「ペンダント」、「愛娘」、「島で過ごした夏」、「ダニエル、マイ・ブラザー」、「老いたるがゆえのシミ…

言語の七番目の機能

ローラン・ビネの言語の七番目の機能(原題 La septième fonction du langage)を読んだ。ビネの第2作目の作品で、本書には実在の人物が多数登場する架空の物語だ。1980年、フランスの哲学者、記号学者、作家であるロラン・バルトが交通事故に遇い、病院に担ぎ…

シンクロニシティ 科学と非科学の間に

ポール・ハルパーンのシンクロニシティ 科学と非科学の間に (原題 SYNCHORNICITY)を読んだ。synchronicityという英単語の意味は同時性とか同時発生というような意味だが、この本では「意味のある偶然の一致」を意味している。本書で出てくる例としては、「都…

ガーンズバック変換

陸秋槎氏のガーンズバック変換を読んだ。早川書房から出版されていて、「著者初のSF作品集」という事にはなっているが、そんなにハードなSF作品ではない。収録されているのは、「サンクチュアリ」、「物語の歌い手」、「三つの演奏会用練習曲」、「開かれた…

HHhH (プラハ、1942年)

ローラン・ビネのHHhH (プラハ、1942年) (原題 HHhH)を読んだ。この小説のタイトルは何とも言えないような奇妙なものとなっている。どのように呼んでいいのかわからない。作者がフランス人なので、アッシュ・アッシュ・アッシュ・アッシュなのか、それとも、…

本売る日々

青山文平氏の本売る日々を読んだ。本書は短編集で、「本を売る日々」、「鬼に食われた女ひと」、「初めての開板」の3編が収録されている。主人公は松月平助という本屋の男である。本と言っても、彼が扱っているのは「物之本」で、仏書、漢籍、歌学書、儒学書…

数学の女王

伏尾美紀氏の数学の女王を読んだ。本作は北緯43度のコールドケース - 隠居日録の続編ではあるが、前作を読んでいなくても問題なく、この小説を読めるようになっている。今回では新札幌に新設された北日本科学大学大学院で発生した爆弾事件の謎を追うことにな…

七つの裏切り

ポール・ケインの七つの裏切り (原題 SEVEN SLAYERS)を読んだ。確か朝日新聞の書評で紹介されていて興味を持ったのが読もうと思ったきっかけだったと思う。驚かされる知略に満ちた「11文字の檻 青崎有吾短編集成」など村上貴史が薦める新刊文庫3点|好書…

アウシュビッツ潜入記

ヴィトルト・ピレツキのアウシュビッツ潜入記を読んだ。昨年の8月11日にNHK BS1でBS世界のドキュメンタリー「アウシュビッツに潜入した男」というのを放送していた。www.nhk.or.jpこの番組を見るまで、ヴィトルト・ピレツキのことは全く知らなかった。それに…

AI法廷のハッカー弁護士

竹田人造 氏のAI法廷のハッカー弁護士を読んだ。読む前はミステリー寄りの作品かと思っていたのだが、実際にはSF寄りの小説だった。「あかさたな」とは何なのかという大きな謎が4つの短編にわたって存在しているが、理詰めで解けるようなものではなし、ミス…

栞と噓の季節

米澤穂信氏の栞と噓の季節を読んだ。これは本と鍵の季節の2作目なのだが、私は前巻の終わりで堀川と松倉の関係が微妙になってしまったので、この物語はシリーズにはならないだろうと思っていた。だが、2作目が出版された。そして今度は長編小説だ。松倉は暫…

名探偵のいけにえ: 人民教会殺人事件

白井智之氏の名探偵のいけにえ: 人民教会殺人事件を読んだ。本書と直接関係のないことから書き始めるが、先日「ペトラは静かに対峙する (原題 Petra)」という映画を見た。その後、filmarks.comのレヴューを見て、 cache.yahoofs.jp*1 「チェーホフの銃」とい…

サード・キッチン

白尾悠氏のサード・キッチンを読んだ。東京の都立高校に通う普通の高校生だった加藤尚実は留学して、憧れのアメリカの大学に入学したものの、やはり言葉の問題でなかなか周りの人たちと関係が築けずに悶々としていた。寮の同室のクレアは当然のことながらア…

不確実性を飼いならす——予測不能な世界を読み解く科学

イアン・スチュアートの不確実性を飼いならす——予測不能な世界を読み解く科学 (原題 DO DICE PLAY GOD? THE MATHEMATICS OF UNCERTAINTY) を読んだ。読む前は、実際にどのようにデータを処理するかというようなことが書かれているのかと思っていたのだが、こ…

11文字の檻

青崎有吾氏の11文字の檻を読んだ。この本は色々なところで発表された短編やショート・ショートを収録した短編集で、「加速していく」、「噤ヶ森の硝子屋敷」、「前髪は空を向いている」、「your name」、「飽くまで」、「クレープまでは終わらせない」、「恋…

惑う星

リチャード・パワーズの惑う星(原題 BEWILDERMENT)を読んだ。あらすじの紹介に「母親の脳スキャンデータを息子に追体験させ」というようなことが書かれていて、SF的な展開のある小説なのか?と思いつつ、読んでみたのだが、SF的なところはこの部分だけだった…

遺伝子とは何か? 現代生命科学の新たな謎

中屋敷均氏の遺伝子とは何か? 現代生命科学の新たな謎を読んだ。黄金虫変奏曲を読んでから、DNAの4つの塩基の暗号がどのように解読されたのかが気になっていたので、本書を手に取ってみた。本書では遺伝子という切り口で生命科学の歴史を振り返っている。DNA…

骨灰

冲方丁氏の骨灰を読んだ。この小説のジャンルはホラーになるのだと思うが、呪とか祟りの物語。2015年の東京の渋谷の再開発エリアに県瀬中の高層ビルの地下の工事現場の写真を撮って、いかにも何かの工事の不備があるというようなツイートをしている者がいて…