隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

爆発物処理班の遭遇したスピン

佐藤究氏の爆発物処理班の遭遇したスピンを読んだ。本書は短編集で、本のタイトルにもなっている表題作を含む8編が収録されている。収録作は、「爆発物処理班の遭遇したスピン」、「ジェリーウォーカー」、「シビル・ライズ」、「猿人マグラ」、「スマイルヘッズ」、「ボイル・オクトパス」、「九三式」、「くぎ」。

表題作の「爆発物処理班の遭遇したスピン」のスピンは量子力学で出てくるスピンのことで、ある部分はSF的なのだが、ちょっと物足りなく感じた。面白かったのは「シビル・ライズ」、「ボイル・オクトパス」、「九三式」、「くぎ」。「シビル・ライズ」は暴対法の施行で落ちぶれてしまったやくざの身に起きた「けじめ」に関する話で、ダークな救いようのない落ちが良い。「ボイル・オクトパス」は退職警察官を取材しているルポライターアメリカまで退職警察官を取材しに行ったのだが、あまりにもな出来事が起きて、没になった記事という体で事件を語る。これはどうなるか予測できなかった。「九三式」は最初に帝銀事件の挿話があり、これとそれ以降のGHQによる野犬狩りがどうつながるのかと思っていたら、ダークな落ちが待っていた。「くぎ」は傷害事件で捕まり保護観察処分にある少年が塗装工として働いてきたときにふと発見した五寸釘から始まる物語で、これもダークな感じの物語で、著者の味が出ていると思った。これは後半ミステリーようなな感じになっている。

映画の正体 続編の法則

押井守監督の映画の正体 続編の法則を読んだ。これは押井守の映画50年50本 - 隠居日録の続編的な本で、今回は映画をpart2という視点で語ったもの。前回である種語りつくした感はあるし、前巻や別の本と重複したような内容の所もあるが、今回は続編がある映画から映画を考えるという事なのだろう。そういう本ではあるが、なぜか続編映画が一本もない宮崎駿監督をあえて取り上げている辺りは、本当に宮崎駿という監督・人間を語るのが好きなのだなぁと思った。

続編映画を作るという視点では監督とプロデューサー側から語り、続編映画を見たいという視点からは観客を語っている。結局は見たい人がいるから、作ることになるというのがある種結論になっている。私は完全に観客なので、なぜ続編を見るのかと言えば、物語の構造がわかっているから、単純に物語を楽しめるという点だと思う。実は先日不思議なフランス映画を見た。

filmarks.com

この映画はあらすじを見るとサスペンスのように見えるが、それほどのサスペンスの要素はないと思う。「自分をもてあそんだ犯人の正体を突き止めるべく」と書いてあるけれど、真剣に正体を突き止めようとはしていない。ただ、この女性を揶揄する動画がメールで送られてきて、それの犯人を捜すように社員と裏取引するところはあるのだが、そっちの方はあっけなく解決してしまう。この女性は過去に父親が連続殺人を犯して、刑務所に収監されていて、その話が後半にクローズアップされるのかと思えば、それもなし。この映画はこの女性も含め、殆どの登場人物が何かおかしくて、ただただそれを描いただけの映画で、犯人の正体に迫る部分を深く掘り下げる映画ではなかった。サスペンスとは呼べないだろう。事前にそれがわかれば見なかっただろうとは思う。よくよく考えれば、殆どの映画は大したことはないような気がするし、見なくても何の問題はないだろう。けれど、そうと分かっていても、なぜか見てしまう。

興味深かったのは、うる星やつらも、パトレーバーも、攻殻機動隊もpart3へのアイディアは既にあるというのだ。ただ、発注はない。発注があれば、やる気満々のようだ。ただどれをとってもストレートな続編ではないのだとは思う。