隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

大統領の冒険

大統領の冒険を読んだ。本書はキャンディス・ミラードの"The river of doubt"(謎の川)の翻訳であり、第二十六代アメリカ大統領セオドア・ルーズベルトのアマゾンの未開の川の探検記である。

副大統領から、第二十六代アメリカ大統領になったセオドア・ルーズベルトは、大統領退任の四年後の千九百十二年三期目の大統領選に革新党から出馬した。しかしそれは、古巣の共和党の票を奪っただけで、民主党の候補に利し、自らは敗北という結果に終わった。この行為への世間の風当たりは強く、自身の敗北という状況もルーズベルトを精神的に追い詰め、彼はその冬サガモアヒルの別荘にこもっていた。

そんな状況にアルゼンチンのムゼオ・ソリアル博物館から講演の招待状が届いたのだ。ルーズベルトはこの講演に南米の自然に親しみ、探索や採取をする冒険旅行を組み込むことを考えた。かって、ルーズベルトが妻と母を同じ日になくした悲しみを乗り越えるために、自らを厳しい自然の中においてそれに打ち勝ったこと、また、同じように父の死を乗り越えたことを、念頭に置いての計画である。

この計画に、ルーズベルトの旧友であるザーム神父がかねてから自身で温めていた南米旅行の計画を相乗りさせてきて、神父が旅の計画を立てることを申し出たのだった。ザーム神父は実務的な作業をさせるためにフィアラという男を雇い入れる。この男は北極探検の経験はあるものの、南米探検の経験はなく、また、北極探検においても自身の隊を遭難させてしまった男であった。

ルーズベルト 当初程よいアドベンチャーが組み込まれた楽しい旅行ぐらいの想定でり、ザーム神父の計画もそれに沿ったものであったが、実際にブラジルを訪問し外務大臣のラウロ・ミューラーと会合したときから、その計画は別のもっと危険なものとなってしまった。ミューラーはルーズベルトに未開の川を下ってみたらどうかと提案し、そのための優秀なガイドを付けることも約束した。そのガイドとはブラジル軍の大佐であり、電報電信線の敷設の任についており、大佐はその敷設のために未踏の地へ足を踏み入れていた。ルーズベルトはミューラーの提案した中で最も危険な「謎の川」を選んでしまった。それはロンドン大佐が見つけたものであり、調査しようとしたが、あまりにも危険なため、別途の調査としたいわくつきの川であった。そのため、周囲の者は翻意するように促したのだが、ルーズベルト決心は変わらなかった。この時点で、アメリカで準備してきた装備はあまり役に立ちそうにもないことになったのだった。

 ルーズベルト一行の探検は講演旅行が終わった後、タピラポアン(tapirapua)から始まった。ここから平原を越えて謎の川まで移動しなければならないのだが、遠征隊の装備の運搬がまず問題になった。あまりにも量が多すぎたのだ。この装備の多さはこの探検中ずーと付きまとう問題であり、探検が進んでいくと、量だけではなく、質も問われることになる。仕方なしに、探検の途中何度も、装備を放棄せざるを得ないのだ。その中でも、重要だったのはカヌーだったのかもしれない。アメリカから持ち込んだ比較的軽量のカヌーの方が現地で調達した重い木彫りのカヌーよりも操作性も、移動性(急流があった場合は人手で運ばなければならない)すぐれていたのだから。そんなこともあり、人員整理が行われ、体力的に問題のあるザーム神父、探検への適性の問題があるフィアラは除隊することになった。

千九百十四年一月十九日、よいよ、ルーズベルト一行は謎の川に向かって出発したが、実際に謎の川を下りだしたのは二月二十七日で、一か月以上も平原を踏破したことになる。しかし、川を下り始めてもなかなか進まない。それは、思ったよりも急流が多く、そのたびに思い丸起船のカヌーと装備品を人力で移動しなければならないからだ。また、旅の時期が雨期と重なり、川の水が増えていたことも更に探検を困難にした。実際、最初の十二日間で百二十キロしか進むことができなかった。しかも、カヌーを失ったり、予想以上に先に進めないことによる食料制限、川での遭難等により、この探検は苛烈を極めていく。また、途中ルーズベルトは足にけがをし、そこが膿んでしまって、急速に体力を奪われていき、探検の途中からはほとんど動けなくなってしまう。

そんな状況ながら、川を下っていくとゴム採集者に出くわすようになり、彼らの支援を受けながら、四月二十六日ようやく川を下ることができた。

この川はロンドン大佐によりルーズベルト川と命名された。

本書は単なるルーズベルトの伝記でもなく、アマゾンの探検記でもない。この探検にかかわった人々とアマゾンの歴史、自然に関して書かれた本である。この本は四百七十五ページと非常に厚い本であり、説明が急に色々なところに行くので、あまり読み易くはないが、ルーズベルトがその最晩年に挑んだアマゾンの探検記で、一読の価値はある。