真実の10メートル手前
米澤穂信氏の真実の10メートル手前を読んだ。これも語り手の視点は作品ごとに異なるが、大刀洗万智シリーズの作品だ。短編集で6作品収録されており、表題作の「真実の10メートル手前」のみが新聞社勤務時代の設定で、それ以外は新聞社を辞めてフリーになった後のストリーとなっている。収録作品は、「真実の10メートル手前」、「正義漢」、「恋累心中」、「名を刻む死」、「ナイフを失われた思い出の中に」、「綱渡りの成功例」。
収録作品では「真実の10メートル手前」と「ナイフを失われた思い出の中に」が面白かった。「真実の10メートル手前」はちょっとした電話での会話をもとに、探している人物がどこにいるかを推理していく物語で、ハリイ・ケメルマンの「9マイルは遠すぎる」を思い出した。もっとも「9マイルは遠すぎる」は「9マイルもの道を歩くのは容易じゃない、まして雨の中となるとなおさらだ」という会話の断片から何があったかを推理する短編で、「真実の10メートル手前」はそれから比べると電話での会話ははるかに情報が多い。
また、「ナイフを失われた思い出の中に」を読んでいて、なぜ大刀洗万智は場所を特定できるのだろうと思っていたが、あの文章がある種の暗号となっているとは意外だった。