門井慶喜氏の「家康、江戸を建てる」を読んだ。タイトルからすると家康が主人公のような印象を与えるが、本書は連作短編小説で、実は家康は脇役でしかなく、家康が江戸の入府する際に江戸のインフラ等を作った男たちの物語だ。五編の物語が収められている。
流れを変える
もともと利根川は江戸湾に流れており、その流れを東に移し、鬼怒川に接続させて、銚子に流れるようにした伊奈三代(忠次、忠治、忠克)の物語である。
いつの頃か覚えていないが、この利根川東遷のことを知って随分驚いたものだ。なので、個人的にはこのストーリーをもっと詳しく読んでみたかった。
金貨を延べる
日本橋の金座・銀座の設立に携わった橋本庄三郎の物語。庄三郎は太閤の吹立御用(貨幣鋳造)役の後藤家の使用人であったが、家康の目に留まり、後藤家の猶子となり、やがては後藤本家をしのぎ、徳川家で貨幣鋳造の中心人物となる。小判は徳川の権威で発行されており、銀の様に目方を図ることなく通用する計数貨幣であり、画期であった。
飲み水を引く
江戸の上水を整備した大久保籐五郎(小石川上水)、内田六次郎と春日与衛右門(神田上水)を普請した男たちの物語。
石垣を積む
二人の「見えすき」と呼ばれた男たちの物語。一人は石切りの頭の吾平。吾平は石(あるいは岩)の節理を読み、どこに鑿を打てば石が割れるかを見極める名人であった。もう一人の見えすきは喜三太、石積みの親方である。喜三太は石をどのように積み上げればよいかを見極める名人だった。
吾平は伊豆の山中で発見した巨大な石を江戸城の石垣に使ってほしいという願いがあった。しかし、石があまりにも大きく、それを運べる船がなかった。喜三太は伊達家には大きな船があり、石を運べるという。はたして、吾平の願いはかなうのか。