逸木裕氏の虹を待つ彼女を読んだ。本書は第36回横溝正史ミステリ大賞受賞作で、2016年9月に刊行された。
プロローグでにおいて、2014年12月、ゲーム開発者の水科晴がドローン搭載された銃に撃たれて、死ぬ場面からストリーは始まる。その銃撃は水科晴が自身が開発したネットワーク対戦ゲーム「リビングデット・渋谷」に仕掛けたトリックにより、ゲームプレーヤーにドローンを操作させて自死したものだった。そして、それから4年後の2020年、人工知能と会話できるアプリ「フリクト」を開発する人工知能研究者の工藤賢は、自信家で自惚れ屋ではあるが、自身の限界も感じていた。そんな時、人工知能の技術を応用して、死者をよみがえらせるというプロジェクトが舞い込んでくる。そのターゲットに選ばれたのが、4年前に自死した水科晴だった。工藤賢は水科晴のことを調べ始めるのだが、彼女の情報ははあまりにも少なく、調査は難航する。そして、「調査から手を引かなければ殺す」という強迫まで受けてしまうのだった。
一応本作はミステリーなのだが、殺人が起きるわけでもなく、日常のミステリーでもない。具体的な謎のターゲットは特に明示されていないのであるが、水科晴が謎の中心にいて、どんな人物だったのかを推理していくという形式で、この点は新しいものだと思った。
工藤は人工知能の研究者となっているが、AI囲碁ソフトを自力で開発するぐらいの人物ではあるが、画像データのEXIFを知らなかったり、据え置きパソコンを盗んだり(ハードディスクだけで十分だと思うのだが)とちょっと変な人物になっている。
それと、死者を人工知能で蘇らせるのという表現は本作に限らず用いられることがあるが、私はこのような表現に違和感を感じている。蘇らせるのが可能なのは人格の一部だけだと思われるので、知能というのは大げさだ。