隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

忘れられた巨人

カズオ・イシグロ氏の忘れられた巨人(原題 The Buried Giant)を読んだ。本書の舞台は古代のイギリス。(もしアーサー王がいたなら、その)アーサー王が去ってからのイギリスが舞台になっている。そこには悪鬼、妖精、ドラゴンなどが登場し、ファンタジーの色合いが濃い作品になっている。

この物語は、老年に差し掛かったアクセルとその妻のベアトリスの物語だ。アクセルとベアトリスはブリトン人で、当時のブリトン人は丘の斜面に深い横穴を掘って住んでおり、その横穴を通路で結んで村落を形成していた。なぜかアクセルとベアトリスは夜に家の中で蝋燭を使うことを禁じられていたが、その理由に関しては本書の中では明らかにされなかった。この村では不思議なことに、なぜかみんな肝心なことが思い出せないのだ。すっかり忘れてしまっていたり、記憶が忘却の霧の彼方にあり、しかとは思い出せないのだ。或る日アクセルは決心をし、それを妻に伝える。その決心とは息子に会いに東の村に赴こうというものだった。そして二人は旅支度をして、息子を訪ねに東に向けて出発した。しかし、実際には彼らは息子が何という村にいるかわからないのだ。にもかかわらず、彼らは旅に出た。

旅の途中で、アクセルとベアトリスはサクソン人の少年エドウィン、サクソン人の戦士ウィスタン、アーサー王の甥のガウェイン卿と出会い、旅をすることになる。アクセルとベアトリスは息子に会いに旅に出たのに、その目的は度々中断され、別なことに巻き込まれていくのだ。
(以下で内容に触れるので)


今回の作品は今まで読んだ2作と違い、登場人物のモノローグとはなっていない。だが、今回の登場人物は以前の作品にもまして、言っていることの信憑性が低くなっている。それは、彼らがなぜか忘却の魔法にかかっていて、肝心なことが思い出せないからだ。それと、本当は知っているのに、あえて知らないふりをしている雰囲気もある。物語が進行していくと、なぜ彼らが忘却の魔法にかかっているのかという理由が徐々に明らかにされていく。それはクリエグという名前の雌竜の吐く息が、人々を忘却の世界に引き止めているのだという。サクソン人の戦士ウィスタンは実はその竜を倒すために王に使わされて、やって来たのだという。そして、ガウェイン卿も竜を倒すために捜しているという。アクセルとベアトリスはいつのまにか、望むと望まないとに拘わらず、竜退治に深く深く巻き込まれていくのだった。

物語の後半に進むにつれ、なぜそのような竜がいて、忘却の魔法が掛けられたのかが明らかにされ、もし、竜が退治され、みんな忘却の魔法が解ければどうなるかも登場人物の視点で語られていく。何が起こるかわかっていながら、彼らは竜を倒そうと行動していく。

この物語の最後の所は本当に唐突に終わってしまう。唐突に終わってしまうが、読者はそのあと何が起きるかは明確に予見できてしまう。そして、悲しい結末になっている。