隠居日録

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2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

B.C.1177 古代グローバル文明の崩壊

エリック・H. クラインのB.C.1177 古代グローバル文明の崩壊 (原題 1177 B.C. The Year Civilization Collapsed)を読んだ。

この本は紀元前3000年頃から始まる青銅器時代メソポタミアから地中海東岸にかけて栄えていた文明が、紀元前1200年ごろから突如消滅した原因に迫る書である。従来は「海の民」という謎の集団による破壊であるとされていたが、「海の民」という集団自体の存在が極めてあいまいであり、破壊の限りを尽くしたと言われているが、その破壊の痕跡も見当たらない。では何がこの地域の文明の破壊をもたらしたのか?

筆者はエジプト~メソポタミアエーゲ海ギリシャに渡る広範囲な文明があり、これらの地域が交流していたことをじっくりと説明している。この部分にかなりの分量を費やしており、非常に長い説明になっている。では、崩壊の原因は何かというと、4つの要因を挙げている。

  1. 地震。だが、普通の社会は立ち直れると指摘する。
  2. 飢饉、気候変動。しかし、社会はこれらの問題からはその都度立ち直ってきている。
  3. 内乱を推測させる記述。が、社会はこのような反乱を普通は無事に乗り越えるものだ。また、これだけ広範囲な地域で、これほど長期にわたって内乱が起きるのは一般的ではない。
  4. エーゲ海小アジア西部、キュプロスからの侵入者が押し寄せたという考古学的証拠がある。
  5. 国際交易ルートは一時期明らかに、完全に遮断はされていないが、損害を受けている。

筆者は自分で要因を列挙しながら同時にそれを否定しているのだ。この辺りは何とも分かりにくいロジックであり説明だ。ではなぜ崩壊したのかという理由を複雑系に求めている。

複雑な社会システムは、その内的なダイナミズムによってさらに複雑さを増す方向に進む。……複雑になればなるほど、システムは崩壊する危険が大きくなる。

複雑系の説明を引用し、

そういうわけで、後期青銅器時代エーゲ海・東地中海地域には、個々の社会政治システムがあり、さまざまな文明があり、それらがますます複雑になって、どうやら崩壊の危険度も高まっていたらしい。それと同時に、交易ネットワークという複雑なシステムも存在していた。相互に依存しあっているだけでなく、その関係において複雑であり、したがって必須の一部のどこかに変化が起きると、途端に不安定化しやすくなる。つまりここにあるのは、ほかの部分は快調に動いている機械が、たった一つの歯車が歪んだだけで完全なガラクタの山に変わってしまうという状況だ。

というようにまとめている。たしかにそうなのかもしれないが、この説明には、考古学的な証拠が何もなく、唐突感を禁じ得ない。この説明が250ページ以上ある本の最後の数十ページに現われたらどのように感じるだろうか?