隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

書架の探偵

ジーン ウルフの書架の探偵(原題 A Borrowed Man)を読んだ。

本書の主人公はE.A.スミス。職業は蔵者。蔵者とは蔵書になぞらえた言葉で、図書館に備えられている再生体(リクローン)で、その時代に蘇った文学者のことである。最初のE.A.スミスはミステリーの作家であった。リクローンは生前の脳をスキャンして情報を保存し、生体工学でDNAから再生された肉体にその保存された情報を書き戻している。体の組成は人間と同等であるが、人間と同じ権利は与えられていない。場合によっては廃棄されることもあるし、なぜかられらには執筆することは許されていない。なぜそのようなリクローンが図書館に備えられているのかは本書では語られていないので、全く不明だ。リクローンを図書館外に借り出すことも可能なのだが、借りて何をするのかも不明。まぁ、そこは借りての自由なのだろうが。

物語はコレット・コールドブルックと名乗る女性が、E.A.スミスを借りに図書館にやってくるところから始まる。コレットは「火星の殺人」というタイトルの本を見せて、この本に何らかの情報が隠されていて、その情報が何かを解き明かしてほしいと言ってきた。コレットが言うには、資産家の父がなくなり、その遺産を調べていた兄が金庫の中に一冊の本を発見した。その本が「火星の殺人」だった。だが、その兄も、本をコレットに渡した直後に何者かに殺されてしまったのだった。

二人は協力して何が起きたのか、本に隠されて秘密は何なのかを調べようとするのだが、ほどなくしてコレットが何者かに拉致されてしまい、スミスは単独で事件にあたらなくなければならなくなってしまう。

この小説の舞台は22世紀ぐらいの近未来が舞台になっており、リクローンとか自動運転の車とか、自家用の飛翔機(フリッター)、自家用原子炉なんかがあるのだが、世界の人口は10億人程度となっていたり、何とも不思議な舞台設定になっている。一応SFであり、ミステリーの部類に入るのだろう。作者は早い段階でコレットに次のように言わせており、

女はうそばかりついているの。

この部分に注意して読むと割とわかりやすい小説だと思う。