隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

図書館島

ソフィア・サマターの図書館島(原題 Stranger in Olondria)を読んだ。タイトルに「図書館」とか「図書室」とあると、なんとなく読んでみたくなる。この本もそんな一冊なのだが、「日本語のタイトルの図書館島というのはこの本のタイトルにはあまりふさわしくないのではないだろうか」というのが読後の率直な感想だ。物語の中では図書館島と名付けられた場所は出てこないのだ。むしろ副題の「交霊者ティオムのジェヴィックの回顧録」の方が内容をあらわしていると思う。この本は主人公ジェヴィックの数奇な冒険の記録なのだ。

ジェヴィックは紅茶諸島のティオム村に住む若者だ。父親は胡椒農場を経営しており、ある日オロンドリア帝国のベインに交易に出かけた帰りに、ルレンという名の家庭教師を連れてきた。紅茶諸島ではキデティ語が話されていたが、文字というものがなかった。家庭教師のルレンはジェヴィックにオンドリア語と文字を教えてくれた。ジェヴィックの家庭環境は若干複雑だ。父親には第一夫人と第二夫人がおり、第一夫人との間には子供はいない。ジェヴィックの母親は第二夫人で、兄のジョムは知識障害があるようで、父親からは見放されている。そのためジェヴィックが跡取りとなることを期待されていて、そのせいなのだろうかベインから家庭教師を連れてきたのだ。しかし、ジェヴィックはオロンドリア帝国への憧れが強くなっていた。

突然父親が亡くなり、交易のためにベインへ出かけて行ったジェヴィックだが、「鳥の祭り」の日に泥酔して、気が付くと売春宿にいた。そこでジェヴィックは幽霊に取りつかれてしまい、そこから数奇な冒険が始まるのだった。

この本は上下二段組みになっていて、ページ数も350ぐらいあるので、とにかく長い。そして、間間に色々な挿話が差し込まれてくるので、あまり読みやすい小説ではないと思う。しかも、最初に書いたように、タイトルの図書館島がどのようにストーリーにかかわっていくるのだろうと思って読み進めてみても、それらしい場所がさっぱり出てこないので、いったいこの話はどうなるのだろうという疑問がたびたび湧いてくる。作中の浄福の島に図書館があるので、その島のことを指して「図書館島」としたのだと思うのだが、この島は物語の一部でしかないので、これをタイトルにするのはいかがなものかと思う。