佐藤正午氏の 月の満ち欠けを読んだ。
東北新幹線のはやぶさで八戸から上京した小山内堅が午前十一時から午後一時頃までの間に東京駅で見聞きした出来事と、過去の出来事とを交互に描くことで、一件ありえない不思議な話に現実味を与えるそんな小説だ。小山内堅は上京する時点では半信半疑で、現実にそんなことが起こるとは思えないでいたのであろう。しかし、100%あり得ないと否定することもできず、でも、理性の内のとどまるために、そんなことはないと100%否定するために、上京したのであろう。何があり得ないのか?それは瑠璃という名前の女性が残した言葉にすべての発端がある。
あたしは、月のように死んで、生まれ変わる
本書のタイトルはこの言葉に由来しているのだろう。月が欠けるように亡くなっても、又月が満ちてくるように、この世に生を受ける。この物語は瑠璃という名の女性の奇跡的な愛の物語であり、小山内堅もまた別な形でその奇跡に二重に巻き込まれているというそんなストーリだ。内容を詳しくかくとネタバレになるので、書くことを躊躇うが、300ページ掛けてじっくりとありえない話に説得力を与えるところが小説の肝になっている。