隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

蒲公英草紙―常野物語

恩田陸氏の蒲公英草紙―常野物語を読んだ。この作品は光の帝国 常野物語 - 隠居日録につながる物語の一冊で、この小説も読もうと思っていたのだが、一年以上も間が空いてしまっていた。

物語は二十世紀初頭の宮城県の南部、山を越えればすぐ福島というある地方の槙村の集落が舞台になっている。主人公の峯子はその集落で医院を開業している家の娘で、父親から大地主の槙村家の娘の聡子の相手をするように言われる。聡子は峯子の一歳年上だが、子供の頃から病弱で、学校へも行けず、同い年の友達もいなく寂しい思いをしている。最近は体の具合もだいぶ良くなってきたから、週に二日ほども言って遊び相手になってほしいというのだ。峰子は聡子に初めて会って、こんなお人形のような顔をした人がいるのかと驚いた。そして、聡子は本当に気持ちの優しい娘でもあった。

物語は淡々と峯子が槙村家で逢った人たちのことが淡々と語られていく。途中槙村家には春田一家が逗留することになるのだが、この春田一家は光の帝国 常野物語 - 隠居日録に登場する春田一家の祖先であろう。彼らも「しまう」ことを生業にしている一家であるから。この槙村家は大昔常野から嫁をもらったことがあり、常野の能力が聡子には現れているようで、それが物語のクライマックスにかかわってくる。最後の章の「運命」が物語のクライマックスで、そこにいたるまではあくまでも淡々と物語がつづられいてる。そしてそこには聡子の運命が作り出す感動が仕掛けられている。

タイトルの蒲公英草紙は峯子がつけていた日記の名前から来ていると思われる。このタイトルもカタカナでもなくひらがなでもないところがいかにも二十世紀初頭という感を出していて、とてもいい感じがする。