隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

T島事件 絶海の孤島でなぜ六人は死亡したのか

詠坂雄二氏の「 T島事件 絶海の孤島でなぜ六人は死亡したのか」を読んだ。

リュミエールという映像制作会社のディレクターが本人も含めスタッフを6人連れて日本海の孤島にロケハンに出かけた。そこに案内した地元の漁師は翌日の昼に戻ってくる約束をして、島を離れたのだが、翌日島に戻ってみると、その島に残った6人とも死んでいたのだった。警察の捜査では、一人が自殺、一人が殺害、残り四人が事故死ということだった。そして、警察の捜査は終了した。しかしその捜査結果に納得がいかなかった映像制作会社の社長瓶子文生は、その事件の調査を月島前線企画という探偵事務所に持ち込んだのだった。彼ら6人はロケハンということで、常時ヴィデオカメラを回しており、20本以上のテープが残されていた。そのテープをもとに事件を再捜査してほしいというのだ。

以上がこの物語の発端であり、概要であるが、この小説自体は多層構造になっている。まず冒頭に「前説」があり、作者がこの物語執筆の背景を説明している。かって月島前線企画が扱った事件の中で物語化しやすい物(2005年9月に起きた事件)を選んだこと。未だにヴィデオテープが残っていて、作者も見たことなど。そしてそのヴィデオテープをもとに、奇数の章で孤島の事件の追いかける形で描き出し、偶数の章では事件後に月島前線企画に持ち込まれた調査依頼の過程を描いている。最終章の七章では月島前線企画の面々と依頼人の瓶子文生が孤島に渡り、事件の謎解きをするところで本編は終わっている。が、その先に補遺があり、2016年11月に脱稿後著者が探偵の月島凪に再度会って、事件の細部を再確認するところが記述されている。しかし、これ自体も全体のストーリーの一部であって、本当の著者はその外側にいることになっている。だから、その補遺の部分も含めてこの小説の全体であり、なぜタイトルがT島になっているのかが明かされているのだ。そして、これ最後まで読み終えて、この本の最初の方にある見開きの目次のページを見るとあることに気づかされることになる。

絶海の孤島で起きた事件はミステリーとしてはあまり意外性はなかったのだが、補遺の部分まで含めて読むとなるほどと思えるところもある。なので、未だにどう判断していいのか自分自身よく判っていない、不思議な読後感になっている。