隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

非線形科学 同期する世界

蔵本由紀氏の非線形科学 同期する世界を読んだ。一見すると異なるリズムで動いているものが、互いに影響しあって、最終的には同期する現象がある。以下のyoutubeの動画は本書の中で紹介されていたものだが、この同期する現象を端的に表している。

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最初にこの同期現象に着目し、考察した人物はオランダの科学者クリスチアーン・ホイヘンスだそうだ。1665年の冬、体調が悪く自宅にこもっていたホイヘンスは水平に取り付けられた一枚の支持板にぶら下げられた2つの振り子時計が、完全に歩調を合わせて左右に振れることに気が付いた。最終的にはホイヘンスは振り子が取り付けられている支持板を通して、かすかな振動が振り子に与える相互作用により同期するのだと結論付けた。

本書ではこの例を皮切りに様々な同期現象が紹介されている。ロウソクの炎、カエルの鳴き声、体内時計、橋と歩行の同期、拍手、ホタル、電力供給網、……。リズムを刻むところには必ず同期が存在するのではないかと思われるぐらい色々な例が紹介されている。

この中で紹介されている体内時計の実験なのだが、「人間の体内時計は24時間よりも若干長く25時間ぐらい」というを聞いたことがあったのだが、どうやらこれは最近では実験の方法がよくなかったという結論になっているようだ。1999年にチャールズ・A・ツァイスラーらの米国のハーバード大学の実験によると24時間11分で、以前考えられていた時間より24時間に近い値になっている。彼らの実験では被験者の生活サイクルを28時間にして実験を行い、体温やメラトニンとコーチゾルのレベルの測定を行った。人間の体内時計は28時間という周期には同期できないことが知られているので、この時間が選ばれたようだ。人間の体内時計の周期は24時間よりも長いが、十分強力な明暗サイクルにさらされることにより24時間に体内時計は同期するようになっている。

同期とは直接関係ないがクオラムセンシングという面白い現象も紹介されていた。例えば病原気に感染しても、健康体なら菌の密度が低く保たれるので問題がないが、免疫力が低下し、菌の密度がある限界を超えると、突然病原菌の活動が活発化し発病する場合がある。菌の密度がある限界を超えると急にある物質を生成することをクオラムセンシングと呼んでいる。細菌の集団ではシグナル分子と呼ばれる物資分子で細胞間で情報のやり取りが行われている。細菌が密集していれば、高い濃度のシグナル分子をどの細菌も感じることになり、その濃度がある限度を超えると、細胞脳遺伝子発現パターンにある変化が生じて、特定の物質が算出され始めることになる。

本書では色々な動機が紹介されていたのであるが、新書という性格上のせいか、なぜこのような同期が起こっているかがよく理解できなかった。そのあたりが残念な点で、もう少し詳細を知りたくなった。