隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

世界を売った男

陳浩基氏の世界を売った男(原題 遺忘・刑警)を読んだ。小説の冒頭は刑事が殺人事件の現場検証をしている場面から始まる。何者かが夫婦を刃物で殺害したようだった。死体は切り刻まれ血だまりができている。しかも、妻の方は妊娠中の様で、お腹の中には赤ちゃんがいたのだった。女の死体を見ながら、犯人逮捕を心に誓っていると、女の眼が動いたような気がした。そして、死んでいるはずの女が言葉を発するのだ。そして、刑事は車の中で目を覚ます。二日酔いの所為か、頭が痛い。断片的に昨日のことが頭をかすめるが、よく思い出せない。先週起きた殺人事件の事を思い出しながら、ふらふらしながらも、香港西署に向かって歩いていくと、何かがおかしい。そして、署の一階のホールで今が2009年であることに壁に貼られているポスターで気づいた。昨日は2003年だったはずだ。では6年分の記憶が一晩で亡くなってしまったのだろうか?そこから男の6年分の記憶を取り戻す話と、殺人事件の捜査が始まるのだった。

このミステリーはかなりトリッキーだ。男は6年分の記憶をなくしており、既に殺人事件は解決したことになっている。しかし、男には事件に違和感を感じていた記憶もある。刑事の男は、事件を取材しているという女性記者と関係者を訪ねながら、事件の再調査をすることになるのだが、なぜ男が6年分の記憶が無くしてしまったのか、事件の真犯人とされてる男は本当に犯人だったのかなど、謎がちりばめられており、読み進めるとさらに謎が深まっていくという構造になっていて、これは非常によくできたミステリーだと思った。最後の最後まで気が抜けない。

この小説の日本語のタイトルは作中に登場するデヴィット・ボウイの歌のタイトルからとっているようだが、ちょっとよく判りにくいような気がした。