隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

凍てつく太陽

葉真中顕氏の凍てつく太陽を読んだ。時代は昭和十九年の年末、北海道の室蘭を舞台に小説は始まる。日崎八尋は身分を隠して、室蘭の軍需工場に人を派遣している飯場に潜り込んでいた。その飯場には朝鮮半島出身の労働者が犇めいてた。八尋は実は特高刑事であり、なぜ身分を隠して潜り込んでいるかというと、この半場から朝鮮人労働者が逃げたのだ。その男は捕まったのだが、夜は施錠されて外部に出られないはずの飯場からどのように逃走したのかわからず、それを調べるために、この半場に潜入捜査のために潜り込んでいたのだ。八尋はうまく飯場の人夫達の信用を勝ち取り、逃走経路を発見するのだが、それは単なる物語の出だしにすぐなかった。やがてこの室蘭の軍需工場を巻き込んで、殺人事件、陰謀へと発展してくのだった。

この小説は500ページを超える大部なのだが、すらすら読めて、とても面白かった。八尋は父親が和人、母親がアイヌという設定になっており、北海道らしい人物造形になっている。そして太平洋戦争末期という時勢、更に朝鮮人やら、特高憲兵などが絡んできて、話が広がっていく。八尋の皇国臣民として、アイヌの末裔としての相克とか、いろんなことが絡んくる。そして、興味深かったのが、登場人物の一人が語る共産主義の話。原始共産制が成り立ったのは、そうせざるを得なかったからで、時計の針を戻すように、近現代で共産主義を実践しようとしても、十分すぎるほどの物はみんなで分け合うことなどできないというような主旨の発言の所。共産主義と独裁がセットになるのはそういうことなのだと改めて気づいた。

この小説にはミステリー的な要素もあるのだが、「なぜ長老は気づいているはずなのに何も言わなかったのだろう」という点がストーリー上気になる所だった。それ以外の、あれちょっと変だなぁと思えるところは先を読むと納得のいく展開になっていた。実にうまいストーリの組み立てだと思った。