デイビッド・モントゴメリーの土・牛・微生物ー文明の衰退を食い止める土の話(原題 Growing a Revolution)を読んだ。
生物の多様化が重要だとよく言われている。私はこの言葉の意味することをあまり深く考えず、半ば盲目的に正しいものとしていたのだが、本書を読んで改めてその意味するところを理解できたような気がする。本書は現在の農業が直面している土壌に関するレポートであり、提言書で、著書は主にアメリカの農家や農業試験場を取材し、そこで今新に行われいる不耕起農法について述べている。
最悪の発明
まず著者は犂が人類最悪の発明だという。犂により耕され、植被が剥がされた地面は土壌が形成されるよりも早く浸食されるからだ。そうして土地は急速に肥沃度を失っていく。そしてこのような土壌は保水力が弱く、水が土の表面を流出してしまい、より多くの水を必要とする。
土壌を通じて植物と微生物の共生を行う
植物は太陽エネルギーを利用して、空気中の二酸化炭素と水素から炭水化物(糖)を合成する。そして、窒素を、特殊な根粒に棲む窒素固定細菌を利用して空気中から得るか、根から硝酸塩として吸収する。植物が必要とするその他の要素は、岩や腐敗した有機物からもたらされる。菌根菌と土壌微生物は、土粒子や岩の破片から無機栄養素を取り出し、植物が根から吸収できるように有機物を分解し、水溶性の養分に戻す働きをする。植物は土壌中に自らが作った炭素を豊富に含む様々な分子を放出する。それは化合物による生産物の三分の一を占めることがある。こうした滲出液は土壌生物には魅力的な食料となるタンパク質と炭水化物(糖)でできている。このように植物の根は土壌から栄養素を引き出す菌類や細菌に餌を与えているのだ。
これだけではない。ある種の菌根菌は、土壌に住む細菌の力を借りて、根のような細い菌糸で、リンのようなものを探し出して取り込む。次に菌根菌は取り込んだ成分を植物との間で根滲出液と交換する。また、植物の根から剥がれ落ちて死んだ細胞は、微生物が食べ尽くし、再処理し、そして、微生物が作った代謝物には、植物生育促進ホルモンと植物の健康を増進したり、防御を助けたりする物質が含まれている。
興味深いことに、植物の根の周り(根圏)の微生物濃度が一定の割合を超えると、植物の生育促進を助ける化合物を放出する。しかし、土壌生物の個体数が少なくなると、化合物は放出されないのだ。
また、腐食者である細菌・菌類は有機物を食べ栄養を付ける。それを捕食性の節足動物・線虫・原生動物が食べる。このよう捕食者の排せつ物は、窒素・リン・微量栄養素を多量に含んでいるので、すぐれた堆肥となる。つまり植物の育つ土壌には食物連鎖が存在しているのだ。
土壌の劣化
ところが土を耕して、土壌がひっくり返されて空気に触れると、土に含まれる有機物の分解が早まり、二酸化炭素が放出される。本書によると、1980年の時点で、産業革命以降人類の手で大気の放出された二酸化炭素のおよそ三分の一が、主にグレートプレーンズ、東ヨーロッパ、中国で土壌をすき起こしたために出たものだったという。窒素肥料の与えすぎが、土壌有機物の喪失に拍車をかけた。耕起した農地からの土壌喪失は平均して年に1ミリといわれているが、その計算で行くと、100年で10センチの喪失となってしまう。
環境保全型農業
不起耕への遺構が環境保全農業の中心にあるが、それだけではない。
- 土壌の攪乱を最小限にする。
- 被覆作物を栽培するか作物残滓を残して、土壌が常におおわれているようにする。
- 多様な作物を輪作する。
収穫された後の作物の残滓(例えばトウモロコシの茎や小麦の茎など)を取り除いたり、焼いたりしないことが重要だ。それらは畑で分解され、地面に有機物のカーペット(マルチ)を作る。マルチを施した区画には、細菌、菌類、ミミズ、線虫などの個体数が多くなる。一方、頻繁に耕すと、土壌微生物のバイオマスが減少し、リンを植物に運ぶ助けをする菌根菌糸を阻害することになり、悪影響を及ぼす。また、被覆作物は、多年生の雑草を抑え、腐養分を土壌に戻す役割を果たす。地面を覆うと、地表のバイオマスと生物多様性が増加し、害虫を抑える益虫が増える。
輪作は、害虫と植物の病原体の進出を防ぎ、輪作のパターンを複雑にするほど、害虫や病原菌が畑に留まる機会を与えず、それらのライフサイクルを断ち切る。そうして、農薬の使用を削減することができる。