隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

交雑する人類―古代DNAが解き明かす新サピエンス史

デイヴィッド・ライクの交雑する人類―古代DNAが解き明かす新サピエンス史(原題 WHO WE ARE AND HOW WE GOT HERE Ancient DNA and the New Science of the Human Past)を読んだ。従来進化の系統樹は中央の幹から枝分かれすると、そのまま分かれていき、決して交わることがないと信じられていたが、本書を読むといかに現在まで我々は交配を続けてきたか思い知らされる。

筆者は現役の遺伝学者で、化石化した骨からDNAを取り出して解析している。得られたDNAデータの具体的な解析方法までは本書で言及されていないが、統計的な手法を用いて解析していることは間違いないであろう。

ネアンデルタール人

近年はネアンデルタール人と現生人類であるホモサピエンスは交雑していたということも色々なところで言及されているので、新しい知見ではない。ネアンデルタール人は40万年ぐらい前にはヨーロッパに分布していた。そして、西ヨーロッパでは3万9000年ぐらい前には姿を消している。しかし、その数千年前には現生人類は西ヨーロッパに到達していた。ネアンデルタール人と現生人類との遭遇は中東でも起こっていた。7年万年前ごろ以降ネアンデルタール人の集団がヨーロッパから中央アジアへ進出し、アルタイ山脈に達し、中東にも入り込んだ。そのころ中東にはすでに現生人類が住んでいて(イスラエルのカルメル山のスフール洞窟やガリラヤのカフゼー洞窟の遺跡)、その後ネアンデルタール人がこの地域に移動し、カルメル山のケバラ洞窟で6万年から4万8千年まえの骨格が1体見つかっている。

DNA解析の結果、非アフリカ人ゲノムの1.5~2.1%がネアンデルタール人由来であることが突き止められている。

移動し交雑するホモサピエンス

この本は三部構成になっていて、第二部が現生人類であるホモサピエンスがどのように世界に広がっていたのかが、考古学的な遺跡・土器あるいは文化、言語的な見地からの考察と、著者の専門分野であるDNAの解析で分かったことが書かれている。

ここで言及されているのはヨーロッパの形成、インドの形成、南北アメリカの形成、東アジアの形成とほぼ地球上のすべての領域をカバーしている。ホモサピエンスの移動も一方方向に進んでわけではなく、ヨーロッパでは氷河によって北部から南部に押し戻されてり、また、氷河がなくなり北部に進出したりと単純な移動ではない。また、インドでは北部の集団と南部の集団が交雑した結果、現在のインド人になったのだということが説明されている。

また、南北アメリカ大陸には4回の人類の到達の痕跡があり、そのうち2回は太平洋の海岸伝いに南米まで達していた。別の2回は氷河の解けたところから北米大陸に達している。

ゲノムとアイデンティティ

2011年から2015年にかけて遺伝子検査会社の「23andMe」が顧客にネアンデルタール人DNAの比率の推定値を提供した。非アフリカ人の場合はゲノムの約2パーセントがネアンデルタール人由来であることを実証した研究については顧客に教えなかった。しかも、大半の集団内のネアンデルタール人DNA比率の真の変動幅は1パーセントのわずか20から30分の1であるのに、この検査では数パーセントの変動を報告していた。さらに、この会社はネアンデルタール人DNA比率のランキングまで提供しているのだ。私には、ネアンデルタール人由来のDNAを多く含んでいることに何の価値があるのか全く分からないので、なぜこのようの検査に価値を見出す人がいるのか全く不思議だ。