隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

かがみの孤城

辻村深月氏のかがみの孤城を読んだ。

安西こころは入学したばかりの中学校をあることがきっかけで行けなくなってしまった。そして、だんだん家の外に出るのも怖くなり、家から出られなくなっていった。そんなある日、自分の部屋にある姿見が光りだし、その姿見の表面に触ると、鏡の中に引き込まれ、どこか知らない城に狼の面を被った少女に導かれてた。

こんな出だしで始まるこの物語だが、城に導かれたのはこころだけではなく、同じ年ごろの子が他に6人いた。アキ、こころ、リオン、フウカ、マサムネ、スバル、ウレシノ。狼の面を被った少女は「オオカミさま」。そして、オオカミさまはこう言った。

「この城の奥には、だれも入れない、”願いの部屋”がある。はいれるのは一人だけ。願いが叶うのは一人だけだ、赤ずきんちゃん」
「お前たちには今日から三月まで、この城の中で”願いの部屋”に入る鍵を探してもらう。見つけたヤツ一人だけが、扉を開けて願いをかなえる権利がある。つまりは、”願いの鍵”探しだ。――理解したか?」

城(といっても実際は大きな屋敷のような建物だが)が開いているのは日本時間の朝の九時から夕方の五時まで。こんな時間に城に来られるのは学校に行っていない子だ。そう、この城に集められた七人は何らかの理由で学校に通えていないのだ。そして、彼らの鍵探しが始まった。

この本は彼らの鍵探しの話がメインなのか、彼らの物語がメインなのかよくわからず読み始めたのだが、どうも彼らがあまり積極的に鍵を探しているようには描かれていないので、どうやら後者なのだろうと思いながら読み進めた。ここに集められた7人は7人とも異なった理由で学校に行っていない。安西こころは入学早々クラスメートからいわれのない悪意を向けられ、恐怖を味わったために、学校に行けなくなった。それ以来他社に対して恐怖を感じている。それを少しづつ明らかにしながら物語は進むのだが、こころは城で他の六人と過ごすことが何より楽しくなっていき、かけがえのない仲間だと思える様になっていく。「鍵」と「願い」は結局どうなるのだろうと思いながら読み進めたのだが、そこも最後のところでは重要な要素になってくる。

読んでいて、なんとなく彼らの関係性が見えてきたところもあったのだが、狼の面を被った少女の「オオカミさま」の正体には思いつかなかった。物語の最後のエピローグまで読むと、作者が張っていた伏線がつながってきて、なるほどよくできた小説だと思った。出版社がポプラ社なので、少年・少女向けなのかもしれないが、とても面白かった。