隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

進化論はいかに進化したか

更科功氏の進化論はいかに進化したかを読んだ。

本書は2部構成になっていて、まず前半でダーウィンの進化論について解説している。ダーウィンの何が正しくて、何が間違っていたのかがメインのテーマだ。後半は生物の進化がどのように起きてきたのかの仮説だ。

種の起源

私はダーウィン種の起源は読んだことがないし、たぶん今後も読むことはないと思う。さすがに160年前に書かれた本は古すぎると思うのがその理由だ。そして、著者曰く、種の起源には間違ったことがたくさん書かれているのだという。中でも、一番驚くのが、種の起源は神学書だというのだ。というのも、種の起源を書いたころのダーウィンは神の存在は否定していなかったのだという。若いころは「生物は神によって作られ、進化はしない」と信じていたようで、その考え方は色々な変遷を経て、「生物は神に作られたものではなく、進化する」になったという。種の起源はこの中間の考えの時に書かれたようで、「生物は神によって作られてたが、進化する」という考えだったようだ。

種の起源の主張は次の三つに要約される。

  1. 多くの証拠を上げて、生物が進化することを示した。
  2. 進化のメカニズムとして、自然選択を提唱した。
  3. 進化のプロセスとして、分岐進化を提唱した。

生物が進化すると考えたのはダーウィンが初めてではなく、ダーウィン以前にもいたが、証拠を示した点がダーウィンの新しかったところだという。仮説を示し、検証したことが画期的だったのだ。

自然選択の考え方もダーウィン以前から存在した。それは平均的な形質を持った個体が生き残るという考えで、今でいうところの「安定化選択」だ。この場合生物は変化しないので、「進化しない」という考えに整合する。ダーウィンが提唱したのは「方向性選択」で、平均的ではない形質を持つものが生存し、全体として生物の形質がある方向に変わっていくような進化だ。ダーウィンは獲得した形質も遺伝すると考えていたが、この考えは誤りである。

3つ目の分岐進化はダーウィンが初めて提唱した考え方で、一つの種が二つの種に分かれて、種分化していくことを表している。

ルフレッド・ラッセル・ ウォーレスとダーウィニズム

ダーウィンとは独立に進化論を発見したとされるウォーレスはほぼダーウィンと似たようなことを提唱したが、違っているところもあった。ダーウィンは進化のメカニズムはいくつかあり、その一つが自然選択といったが、ウォーレスはほぼ自然選択だけが進化のメカニズムだと主張した。ダーウィンは生物の体には適応していない部分があるが、ウォーレスは生物は完全に適応していると考えていた。また、ダーウィンは自然選択が作用する対象は個体と考えていたが、ウォレスは個体だけでなく種にも自然選択が作用すると考えていた。更に大きな違いは、ダーウィンはヒトにも他の生物と同様自然選択が働くと考えていたが、ウォーレスはヒトの高度な知的能力は自然選択の例外だと主張した。これらはダーウィンの方がおおむね正しい。

ウォーレスはダーウィンの死後自分の進化論をまとめた書物を出版し、ダーウィンを尊敬していた彼はその書物の名前をダーウィニズムにしたのだ。ここに大きな誤解が生まれる素地ができた。ダーウィニズムダーウィンの考えではなく、ウォーレスの考えなのだ。ダーウィニズム種の起源よりわかりやすかったようで、種の起源よりも読まれたらしい。

ヒトの直立歩行と犬歯の退化

ヒトが直立歩行を始めたころと犬歯の大きさが小さくなったのははぼ同じ時期だという。ヒトが直立歩行理由としては7つほど挙げられていて、それらは

  1. 太陽光が当たる面積が少なくなる。
  2. 頭部が地面から離れるので涼しくなる。
  3. 遠くが見渡せる。
  4. 大きな脳を下から支えられる。
  5. 両手が開くので武器が使える。
  6. エネルギー効率がいい。
  7. 両手が開くので食料を運べる。

とされている。近年では人類が最初に進化したのは森林や疎林のような樹木がある環境だということが化石からわかっているので、1から3は理由としては弱い。4から7は森林・疎林でもなり立つが、他にに二足歩行する生物が進化しなかった理由の説明がつかない。二足歩行の最大の欠点は遅いということだ。それでもなぜ二足歩行が選ばれたのか?

ここで犬歯のことがクローズアップされる。犬歯というのは噛むために使われるが、ヒトはこれが小さいので犬歯で相手を噛み殺すことがほぼできない。これは犬歯の成長に使うエネルギーを他に振り向ける選択が有利に働いた可能性であり、そういう生き方が可能になった表れではないかというのだ。ヒトは一夫一婦制を選択し、メスを争う同種内での争いが減ったので、犬歯が小さくなったのではないかという仮説だ。そうなるとここで注目されるのが7番目の「食料を運べる」とい理由だ。二足歩行も一夫一婦制も他の類人猿には見られないヒトの特徴だ。