隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

ランドスケープと夏の定理

高島雄哉氏のランドスケープと夏の定理を読んだ。

姉のテアは12歳で故郷のグリーンランドを離れ、日本の大学に進んだ。17歳で宇宙物理学の博士号を取得する前に助教になった。というのも極めて優秀で、様々な理論を発表し、そして、22歳で教授になった。だがこれは世間から見た姉の一面であって、弟のネルスにとっては傍若無人で、我儘な姉だ。3年前だって、いきなり日本の研究室に呼び出したと思ったら、量子ゼノン転送の試験台にされてしまった。ごく弱い光を照射して、量子論的な状態をかき乱すことで、状態の時間変化を停止させる量子ゼノン効果を脳に適応し、脳を停止させるとともに、記憶情報を取り出して転送させる実験だ。この試験台になる代わりに、ネルスは卒業論文を手伝ってもらい、知性定理を発見した。でも、その試験中にちょっとした手違いがあり、それがもとで姉と喧嘩別れしてしまった。それから3年後、今姉はラグランジェポイントにある宇宙実験施設 L2基地で研究活動を続けている。そして今度はそのL2基地に呼び出されて、向かっている途中だ。

本書は中篇集で、ランドスケープと夏の定理、ベアトリスの傷つかない戦場、楽園の速度の三篇が収録されている。本作には「量子ゼノン効果」、「知性定理」、「ドメインボール宇宙」、「ボール宇宙計算機」、「理論の籠」、「運動エネルギー非保存空間」とか色々出てきて、面白いのだが、残念ながら「知性定理」はちょっとピンとこず、理解不能だった。もちろん架空の定理なので、理解できるとかできないとかではないのだろうが、イメージがわかなかったのだ。じゃあ、面白くないかというとそんなことはなく、知性定理がよくわからなくてもストーリーは楽しめるようになっている。本当は弟好きの姉と、姉に振り回されても姉のことを慕っている弟のドタバタストーリ的な側面もある。宇宙に行ったと思ったら、地球に脱出して、更にまた宇宙に戻るという目まぐるしくいったり来たりの冒険ありのストーリーになっている。

ちょっと気になったのは、P242で「小さいとはいえ一国の将官であるアウスデイルのために」と書いているのだが、アウスデイルの階級は少佐なので、誤植か誤記なのか?