桑木野幸司氏の記憶術全史 ムネモシュネの饗宴を読んだ。
数年前から物覚えが悪くなった。年齢による問題だとは思うのだが、なんとかならないかと思っている。実生活にさほど影響のあるものではないのだが、例えば、朝、洗面をしながら、家を出る前にアレをしておこう、コレをしようと考えていることを、洗面が終わるとすっかり忘れて、何もせずに出かけてしまうことがままあるのだ。それで、こういうことを何とか改善できないかと思い本書を読んでみた。
本書で述べられている「記憶術 (the art of memory)」は紀元前にさかのぼるギリシャ時代からあるようで、それが古代ローマ時代に弁論術・弁論家と結びついて発展したという。もちろんその動機には、メモをするための紙など高価で手に入らないという根本的な動機があったのだろうと推測されるのだが、雄弁に論ずるために弁論家による技法のひとつとして記憶することが重要であったという側面もあるようだ。
記憶術の実際
では、どのように記憶するかというと、3つの重要な要素がある。「場所」、「イメージ」、「秩序」である。
場所
まず、頭の中に情報の器となる仮想の空間を設定する。覚える情報とは直接関係のない家屋、広場、街路などといったものが「場所」となる。これが情報の入れ物になるのだから、この場所については即座に頭の中に展開できなければならない。
イメージ
次に行うのは、記憶すべき情報の「イメージ」化だ。記憶術で覚える内容というのは、例えば演説する内容、講義の内容、書物の一節、舞台でのセリフなどである。これらの文字のつながりを鮮やかな図像に転換する必要がある。イメージ化するのに文字一つ一つをイメージ化する方法と、情報の要点のみイメージ化する方法の2通りがある。
秩序
最後にイメージ化した図像群を仮想の空間に順番に配置していくのだ。例えば、戸口、柱、壁、階段など空間の区切りとなる場所に配置していくのだ。そして、どこにどんなイメージをどんな順番で配置したのかをしっかり記憶する。
以上が古代ギリシャ・ローマから伝わる記憶術だ。これは大変な作業だ。覚える対象も私の考えていたものと比べると遥かに壮大なものだし、本書にも書かれているが、術そのものの取得にも数か月かかる。ちょっとこれは使えない。