隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

狐火の辻

竹本健治氏の狐火の辻を読んだ。

湯河原のあたりで噂されている不思議な話・都市伝説の裏には実際に事件があったという感じのミステリーだ。最初の「序としての断章」にそれらの話が語られている。一つは森の奥の沼のそばに隠れ家があり、そこには黒いマントを被ったような男がいて、後ろから抱き着いて「手を返せ」と囁くという。もう一つは、土砂降りの雨の中大きくカーブした道路で事故を起こした老婆がいた。病院に担ぎ込まれた老婆が言うには、人をはねたような気がする。確かに車には人をはねたような形跡があるが、はねられはずの人間はなぜか現場にはおらず、忽然と消えてしまったのだ。更にもう一つは、タクシーの運転手が50歳ぐらいの痩せた陰気な男を見かけた。一週間ぐらいしてまた同じ男を見かけて、なんとなく気になって様子を見ていると、どうやら先を歩いている女をつけているらしい。運転手も気になって、男の後をつけると、墓地の辺りでいつの間にか男はいなくなり、つけられていたはずの女がいて、「私をつけていたのはあなたなのですね。ユルセナイ」と言い、手に持っていた刃物のようなものを振りかざすので、タクシーの運転手は這う這うの体で逃げたという話。

これ以外にも不思議な話・都市伝説の類が出てくる。そして、本作にはあの牧場智久も登場するのだ。実際にこのとりとめのない不思議な話を調べるのは湯河原の警察の楢津木刑事とその仲間なのだが、アドバイザー的に牧場智久にかかわってくる。楢津木は「涙香迷宮」にも出てきたし、さらにさかのぼると、「狂い壁 狂い窓」にも登場していた。牧場智久あるところには津木刑事ありなのか。実は今までなんとなく読んでいたようで、全然記憶に残っていなかったのだが、牧場智久は高校にはいっていない設定だったというのに今回改めて気づいた。武藤類子とコンビを組んでいた作品もあり、彼女が女子高生なので、なんとなく高校の知り合いから二人の関係がスタートしたのだと勘違いして記憶していたのだが、実際は全然違った。武藤類子は「凶区の爪」の最初の方に囲碁雑誌編集者の槇村柾夫の従妹として登場していた。すっかり忘れていた。

それともう一つ。本書では噂についてあれやこれや推理していく部分もあるが、そのような噂の推理って何かで読んだ記憶があったのだがと考えていたら、どうやらそれは「将棋殺人事件」のようだ。これも最後に読んでからかなりの時間がたっているので、細部どころか概要すら思い出せない。