隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

なめらかな世界と、その敵

伴名練氏のなめらかな世界と、その敵を読んだ。本書はSF短編集で、「なめらかな世界と、その敵」、「ゼロ年代の臨界点」、「美亜羽へ贈る拳銃」、「ホーリーアイアンメイデン」、「シンギュラリティ・ソヴィエト」、「ひかりより速く、ゆるやかに」の6編が収められている。

なめらかな世界と、その敵
多重世界を認知できる人々の物語で、読み始めたときは何が起きているかわからず混乱してしまった。こういう多重世界を文章や映像にしたものに触れると何か自分の認知がおかしくなったような気がして、不安になる。これは百合SFなのだろうか。
ゼロ年代の臨界点
1900年代初頭に少女を中心としたSF創作ブームあったという架空歴史もの。
美亜羽へ贈る拳銃
美亜羽は伊藤計劃氏のハーモニーの登場人物の名前を付けたという設定で、これは伊藤計劃トリビュートの収録された作品のようだ。ナノマシンにより脳の知覚・信号伝達に干渉を加えらる処置が簡易なデバイスで可能になり、恋人同士・夫婦が文字通り永遠の愛を誓えるようになった世界でのラブストリー。憎んでいる・愛しているが相克するストリーになっている。
ホーリーアイアンメイデン
この小説は手紙形式になっている。妹から姉への手紙になっていて、姉は特殊な能力を持っており、手紙は妹の死後届けられている。妹は自分が死ぬことがわかっていて、死後に姉に数通の手紙が届くように手の込んだことをしているのだが、手紙の中で何があったのかが明かされる。
シンギュラリティ・ソヴィエト
アメリカとソビエト人工知能が技術的特異点を超えた世界の物語。ソビエト人工知能を搭載した有人戦闘機が空の英雄が操縦する戦闘機に空戦で勝ったいう人工知能の勝利を象徴する出来事の裏にあった真実とは何なのか。本作の筋とは関係ないが、ソビエト人工知能はヴォジャノーイと呼ばれるけれど、水の精という言葉からイメージするものよりはかなりモンスター的な外見になっているようだ。
ひかりより速く、ゆるやかに
東京への修学旅行の帰りに集団低速災害に巻き込まれた高校生たちの物語。突如新幹線が線路上に停止して動かなくなった。詳しい観測の結果新幹線の中の時間が異常に遅くなっていることが分かったが、外から中にアクセスする手段は見つからなかった。修学旅行に参加しなかった生徒は2人いたのだが、彼らは何を思いどうしたのか、何が原因でこんなことが起きたのかというストーリー。

この中で面白かったのは「美亜羽へ贈る拳銃」、「シンギュラリティ・ソヴィエト」、「ひかりより速く、ゆるやかに」だった。「ひかりより速く、ゆるやかに」は時間物のような側面がり、この謎の集団低速災害の原因が面白い。