隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

恋と禁忌の述語論理

井上真偽氏の恋と禁忌の述語論理を読んだ。本書は連作短編で、「スターアニスと命題論理」、「クロスノットと述語論理」、「トリプレッツと様相論理」の三つのミステリーと「恋と禁忌の……?」のおまけの4編が収録されている。

本書はミステリーなのだが、その趣向は探偵が推理した結論をアラサーのセミリタイアした論理学者が論理学により検証し、その瑕疵を指摘して、新たに謎を解くということだ。大学生の森帖詠彦がアラサーの叔母の硯もとに謎を論理学で検証できるかと相談を持ち掛けることで物語は進んでいく構成が共通している。「スターアニスと命題論理」では「毒殺と事故死を論理的に見分けることは可能か」と聞き、「クロスノットと述語論理」では容疑者が特定できない殺人事件の推理を論理学で検証し、「トリプレッツと様相論理」では双子のどちらかの犯行か特定できない殺人事件を論理学で検証する。論理学者の硯は探偵の導き出した推理を論理式に変換し、その矛盾点を論理学的見地から指摘するのだ。そして、真の犯人を特定する。但し、これは詠彦が遭遇した事件を語って、硯がその謎を解くというアームチェアーディテクテブの形式をとっており、硯の指摘が本当に正しいかどうかまでは書かれていないので、探偵の推理には瑕疵があり別の可能性もあるというところで終わっているのが難点なのかもしれない。あと、論理学については丁寧に解説されてはいて、非常に興味深い。特に、一度記号化された命題式が得られたならば、ものと意味など考えずに、数式を解くようにして、それらの命題に矛盾があるかないかを判別できるところが面白いと思った。だが、この部分は一般受けしないのではとも感じた。

あとつけ加えると、「トリプレッツと様相論理」は後のその可能性はすでに考えた聖女の毒杯 その可能性はすでに考えたに登場する探偵上苙丞のストーリーとなっている。後のシリーズ物がここから始まっていたというのは面白い。作者も探偵上苙の方が受けがいいと思ったのだろうか?