隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

まち

小野寺史宜氏のまちを読んだ。これは北上ラジオの第11回で紹介されていた。

『まち』小野寺史宜(祥伝社)の傑作を読もう! 北上次郎「北上ラジオ」第11回 Presented by 本の雑誌社 - YouTube

瞬一は東京に出ろ。東京に出て、よその世界を知れ。知って、人と交われ

このようにじいちゃんに言われて、江藤瞬一は高校卒業と同時に東京に出た。大学に行くのもいいし、就職するのもいいといわれたが、どちらもこれといった活動はしなかった。とにかく東京出るという結論を出し、群馬県片品村から東京に出た。東京に知り合いがいたわけでもなく、何か当があったわけでもない。東京の地図を見て、大きな川があるのに気づいた。荒川だ。何とはなく川に惹かれ、江戸川区の平井に住むことに決めた。駅から徒歩15分の筧ハイツ。瞬一が東京に出てきてから4年後のところから、物語始まる。

本書では何か劇的なストーリーが展開されるわけではない。瞬一の日常、筧ハイツの住人との交流、バイト先の引っ越し会社での出来事などが丁寧に描かれていく。じいちゃんに東京に出ろと言われて東京に来た瞬一は未だどうしていいのかわからず、それでアルバイトを続けている。最初はコンビニで働き、その次は体を動かす仕事がしたいと思って、引っ越し会社で働いていた。その瞬一の日常が本書では淡々と描かれている。こう書くと瞬一が目的もなく、無気力な人間のように思えるかもしれないが、決してそんなことはない。この物語の最後では、周りの人たちと交わりながら、自分の進むべき道を見つけて、前向きに生きる姿勢が描かれている。

じいちゃんが時々発する言葉がなんとなくいいなぁと感じた。

町で、人の中で生きていける人間になれ

とか、

人を守れる人間になれ

じいちゃんの言葉はあまりにも漠然としていて、ちょっと面食らうような内容だけれど、瞬一はこのような言葉を受け止めて、行動を起こしていき、自分の進むべき道、将来を選んでいこうとするのだ。あまりにもハートウォーミングなストーリーかもしれないけれど、それはそれでいいと思う。