隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

熱源

川越宗一氏の 熱源を読んだ。この作品の主人公の一人は樺太出身のアイヌであるヤヨマネクフなのだが、この人物は実在の人物のようだ。そして、この小説にはマジックリアリズムの手法で書かれたのかと思わされるほど実在の人物が色々登場してくる。国語学者金田一京助、南極探検の白瀬矗ポーランド系ロシア人ブロニスワフ・ピウスツキ、二葉亭四迷大隈重信などなど。作者も本書の最後で「史実を基にしたフィクション」と書いているので、多分にフィクションが混じっていて、実際彼らがどれぐらいかかわっていたのかは不明だが、それを差し引いたとしても、登場人物が多彩で、非常に面白かった。ただ、扱っているのがヤヨマネクフだけではないので、400ページを超える小説ではあるが、ヤヨマネクフの生涯のすべてが扱われているわけではないのが、残念だ。彼は白瀬矗の南極探検にアイヌ犬の橇を扱う専門家として参加しているのだが、そのストーリーは本書の後半の方に少し出てくるのみだ。

物語の序章は第二次世界大戦末期、ロシアが日本に攻めてくるところから始まるのだが、第一章では時代がさかのぼり、明治最初のことになり、ヤヨマネクフが北海道の札幌周辺の対雁ついしかりに舞台が移る。ヤヨマネクフはもともと樺太に住んでいたのだが、樺太・千島交換条約により、樺太がロシア領になったことから、北海道に移住していていたのだ。そこで、ヤヨマネクフは妻となるキサラスイに出会い、一人息子をもうけるが、対雁はコレラと痘瘡にやられ、800人以上いた樺太アイヌは半減してしまい、ヤヨマネクフは妻を失い、結局ロシア領となっていた樺太に息子とともに戻っていくのだった。

当時の日本政府により同化政策がとられたアイヌであるが、それはとりもなおさず彼らが非日本人とみなされていたということだ、差別的な扱いを受けていた。しかし、生まれ故郷の樺太に戻ったとしても、状況はあまり変わらず、ロシアにとってみれば、彼らは異民族だった。しかも、ロシアは樺太流刑地としていて、流刑人を使って開拓しようとしていたこともあり、ロシアとの軋轢もあった。やがて樺太日露戦争により半分は日本領になり、また日本人がやってくることになったのだった。この物語はロシアと日本の間で翻弄された樺太アイヌの物語であり、また、一方でロシアにより故郷を占領されたポーランド人ブロニスワフ・ピウスツキの物語でもある。ブロニスワフ・ピウスツキは政治犯として樺太に流刑され、彼らとかかわっていくことになる。

川越宗一氏は今作は北海道・樺太が主な舞台となっているので、北海道と関係のある経歴かと思ったのだが、生まれも育ちもあまり関係なさそだ。どういうところからそこを舞台に選んだのだろう。ちょっと疑問に思った。