隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

新蔵唐行き

志水辰夫氏の新蔵唐行きを読んだ。以前読んだ疾れ、新蔵と同じ主人公が登場する小説だったので、読んでみた。この小説の中で新蔵は三国屋を一時離れ、諸国を回って見聞を広める旅をしていた。実は新蔵には心に秘めたる旅の目的があり、それは三国屋の宰領でいずれ小此木家を継ぐことになっていた義孝の消息を探すことであった。義孝は五年前に船が難破して行方不明になっていた。新蔵は長崎で無頼の徒に襲われそうになっていたななえという娘を助けた縁で、ななえを中国商人の父親である周士斐の許に連れて行って戻ってくるという役割と引き換えに、清国に行く伝手を得た。縁あって知遇を得た五島列島福江島の六兵衛の話だと、西の方に流されて行った船を見たという。それが難破した義孝ではないかと一縷の望みをかけ、手掛かりを探しに清国まで消息を訪ねに行こうというのだった。

この話は実は前半と後半ではがらりと変わってしまう。前半はななえを清国に連れてくストーリがメインだが、それは新蔵が清国にわたるためのお膳立てのようなストリーで、それほどの冒険もなくあっけなく終わってしまう。ななえが現地の言葉である呉語を話せるので通訳としてストーリにかかわってくるかと思ったら、病に倒れていた父親と過ごすために、あっけなくメインの登場人物から脱落してしまった。更に、義孝の消息もあっけなくわかってしまうのだ。そこからはアヘン戦争の真っ最中の清国での別の冒険の話になっていくのだが、今回は異国の地ということで新蔵はあまりうまく動けていないように感じた。例の仕込み杖もほとんど活躍する場面がないし、言葉の壁はいかんともしがたい。作者は何で舞台を清国に選んだのだろう。それに、物語の終りはかなり駆け足になっていて、ちょっと物足りなさを感じた。