隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

博士を殺した数式

ノヴァ・ジェイコブスの博士を殺した数式(原題 The Last Equation of Issac Severy)を読んだ。本の裏表紙には「祖父の死の真相に迫る暗号謎解きミステリー」となっており、その祖父が天才数学者という設定なのだから、さぞかし面白い暗号が作りこまれていて、パズルのような暗号なのだろうと思った。果たして、英語から日本語へ翻訳をしても、それはうまく意味をなす暗号のままなのだろうかという疑問もわいたのだが、読んでみたら、期待していたような暗号は登場しなかった。かなり残念だ。その暗号を一部引用するとこのようなものだ。

ヘイゼル、おまえならきっと私の面倒な頼みを聞いてくれるだろう。わたしがつけられていなければ自分でやったのだが。こんなことを頼んでいるがわたしは正気だ。一三七号室にあるわたしの研究を破棄してくれ。焼却。粉砕。ハードディスクは再フォーマットしろ。理由を説明している時間はない。ただ迅速に実行してほしい。ほかの人間に見つかる前に。

方程式そのものはおまえが保管しておくように(わたしはこの方程式を、彼らがもっとも疑わなさそうな家族に残すことにした)。方程式はほかの誰でもなく、ジョン・ラスパンティに届けてくれ。彼の好みの柄はヘリンボーンだ。

暗号と言えば暗号だ。この文章を読んで、前提となる知識がなければ、意味がつかめない。「一三七号室」、「もっとも疑わなさそうな家族」、「ジョン・ラスパンティ」とかは何のことだかわからない。しかし、これは私がイメージしていた暗号とは似て非なるものだった。

物語はこの手紙を受け取ったヘイゼルの許に祖父アイザック・セブリーの訃報がやって来たところから始まる。実際はアイザックはヘイゼルの養父の父なので、養祖父なのだが。物語はヘイゼルの視点と、ヘイゼルの兄のグレゴリーの視点、それとアイザックの長男で素粒子物理学者のフィリップの視点で語られて聞く。ヘイゼルは祖父から依頼を忠実に守ろうと祖父の研究を探す。フィリップは謎の組織から接触を受けて父の研究を知らされるのだが、何も知らないのに彼はこの事件に巻き込まれていく。グレゴリーはロサンゼルス警察の警察官なのだが、祖父の手紙に警察には知らせるなと書かれているので、ヘイゼルはグレゴリーに相談することもできない。しかも、グレゴリーは隠れて何かを行っているようなのだが、それが徐々に明らかになり、それは一見この事件とは関係ないと思わせつつ、最後で関係してくるようになっている。

暗号に関しては予想と違ったので、残念だったが、ストリーとしてはなかなか面白かった。ただ、「方程式」はどう考えても荒唐無稽なものなので、具体的にはどのようなものかは書かれていない。まぁ、それは当然だろう。