隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

パラ・スター 〈Side 百花〉

阿部暁子氏のパラ・スター 〈Side 百花〉を読んだ。本書は北上ラジオ第14回で紹介されていた。

泣ける小説なんてもんじゃない。涙があふれ続ける小説なのだ! 阿部暁子『パラ・スター』を読むべし(電車の中以外で)!「北上ラジオ」第14回 Presented by 本の雑誌社 - YouTube

今回読んだのは、まず〈Side 百花〉編。この小説は山路百花が主人公の小説で、彼女が車いすを製造する会社に就職して1年後から物語が始まる。なぜ、彼女が車いすの製造会社に就職したのか?それは、彼女の親友の君島宝良たからが高校生の時に自動車事故で脊椎を損傷し、車いす生活を余儀なくされたからだ。事故に会う前の君島宝良は硬式テニスに打ち込んでいて、インターハイに出ること、そして、インターハイで優勝すること目標にしていた。事故後は当然今まで通りにテニスもできない事に宝良は絶望し、全くやる気をなくして落ち込んでいた。百花は宝良に何とか元気を出してもらいたくて、車いすテニスを勧めたのだが、宝良は最初は車いすテニスはリハビリの延長のようなものだと言い、興味を示さなかった。しかし、百花が車いすテニスの国際大会(飯塚国際車いすテニス大会)の観戦に誘い、その会場で繰り広げられていたレベルの高い試合を目の当たりにした宝良は自分も車いすテニスに打ち込んでみたくなり、前向きな気持ちを取り戻のだった。そして、そんな宝を見て百花は次のような約束をするのだ。

たーちゃんほパラリンピックにも出るくらいの、最強の車いすテニス選手になって。わたしは、たーちゃんのために最高の車いすを作るから。

そして、それから約4年後の2019年。百花は車いすを製造する会社に就職し、競技用の車いすを製造する部署に配属され、エンジニアとして歩み始めたばかりだが、一方の宝良は国内でもトップクラスの選手になっており、国際大会にも出場する実力選手になって、2020東京パラリンピックの代表も視野に入っていた。百花は宝良の活躍を喜びつつも、彼女との間に差がついてしまったことに焦りも感じていた。〈Side 百花〉編は百花が何とかもがきながらも、エンジニアにとって何が大切なのかを気づいていくストーリーになっている。

〈Side 百花〉は車いすを作る方の話なので、車いすテニスの事だけでなく、競技用の車いすの事の説明とかもあり、なるほどと思えるようなことや知らないことも当然多々あり、その部分だけでも興味深い。北上ラジオで、北上氏はP108の「行きなさい、宝良」から泣きっぱなしだったと言っているが、流石にそれはとは思うものの(P108は本書の真ん中にまだ達していないところだ)、一途な百花の頑張りが心を打つのだろう。ストーリーの盛り上げ方もよく、私はむしろ、百花の指導役の小田切がいい味を出していると思った。