隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

パラ・スター 〈Side 宝良〉

阿部暁子氏のパラ・スター 〈Side 宝良〉を読んだ。本書は北上ラジオ第14回で紹介されていた。

泣ける小説なんてもんじゃない。涙があふれ続ける小説なのだ! 阿部暁子『パラ・スター』を読むべし(電車の中以外で)!「北上ラジオ」第14回 Presented by 本の雑誌社 - YouTube

これはパラ・スター 〈Side 百花〉の続編で、こちらは君島宝良たからが主人公だ。時は2020年に移っていた。2019年の後半から宝良は調子を崩してしまい、全然試合に勝てなくなっていた。〈Side 百花〉で宝良は意志が強く、クールでどんなことがあっても動揺しないような感じで描かれているが、今回の不調の原因の一つはメンタルの問題だった。長年宝良のコーチをしてくれていた雪代に病気が見つかり、そのことがかなりのショックで、思うように試合に集中できなかったのだ。そして、2020年1月、雪代からコーチの辞任が申し渡された。

本書では、2020年のパラリンピック・イヤーになり、宝良が日本代表に選ばれるかどうかがストーリーの肝になっている。そして、物語のクライマックスはまたしても飯塚国際車いすテニス大会での試合。この国際試合で好成績を残さなければ、宝良はパラリンピックには出られないのだ。そこでの、テニスの試合の描写はスピード感があって、読んでいて非常に面白いところだった。

〈Side 百花〉と〈Side 宝良〉を合わせて、二人の間にある強い結びつきが描かれていて、単なるスポーツ小説だけでなく、二人の友情の物語でもあることを強く印象付けられて。〈Side 百花〉では取り残された感があった百花だが、〈Side 宝良〉では強くなったとはいえ、まだ上には上がいる状況の宝が描かれていて、二人の間には優劣などないということが表されているのだと思った。

それと、本書の最初の方で、宝良が排せつ障害があるというような記述があり、脊髄を損傷して、足が動かせなくなるということは、そういう問題も抱えるのかということに気付かされた。単に足が動かせないというだけでなく、足を含む下半身の自由が利かなくなるということに全然思い至っていなかった。