隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

三体Ⅱ 黒暗森林

劉慈欣氏の三体Ⅱ 黒暗森林を読んだ。タイトルをパット見て、「暗黒…」だと思い込んでいたが、よく見たら「黒暗…」だった。

三体Ⅱ では三体人が地球に侵略することが明らかになった世界で、「危機紀」という新たな紀年が定義されている世界になっている。国連は惑星防衛理事会を組織し、国際的な枠組みで地球の防衛を行おうとしている。しかし、一方地球人の中には逃亡主義という考えが広がり始めていて、それは三体人の影響が及ばない宇宙に脱出しようという考えだ。しかし、この考えは地球人に混乱と分断をもたらす危険な思想だった。国連は早々にこの考えを否定し、地球防衛のために面壁計画ウォール・フェイサー・プロジェクトを発動し、4人を面壁者を選出した。この4人が最終的な防衛計画を立案し、実施に向けて準備する。そのために限りある地球のリソースを彼らの防衛計画を実現するために優先的に割り当てるのだ。だが、実際最終的な計画は決して本人からは開示されないようになっている。なぜなら、三体人は智子ソフォンにより地球人を監視することができるが、地球人の心の中、頭の中までは覗けないからだ。

三体Ⅱ の主人公は三体から変わっていて、主人公の一人は面壁者の一人羅輯になっている。羅輯は大学の社会学の教授だが、偶然会った葉文潔に宇宙社会学を研究するように言われ、宇宙社会学の公理を授けられる。羅輯は身勝手な男で、面壁者に選ばれても、その使命を放棄しようとしたり、放棄できないと知ると、田舎に引きこもってしまう。上巻の後半でようやく何かを行おうとしている時に、三体協会からのウィルス攻撃により、病に倒れる。三体協会は面壁者に対抗するために破壁人ウォール・ブレイカを刺客のようにして差し向けて、その意図するところを明らかにして、計画を頓挫させるのだが、羅輯の場合は執拗に命が狙われる。

また一人の主人公は海軍大佐の章北海で、彼は後に組織される宇宙軍にスカウトされ、敗北思想がはびこる軍隊で何とか終末決戦で宇宙軍が戦えるように備えていくのだ。彼は生粋の軍人で、目的の為なら殺人も躊躇しない、冷徹な心を持っている。

三体人が地球に到達するのには400年以上かかる設定になっていて、この時間スケールを人間の寿命とどう折り合いをつけて描くのだろうと思ったのだが、人工冬眠が既に実用化しており、主要な登場人物はその技術で時を超えることになる。そして、下巻の黒暗森林の章では200年以上経過している未来の時間軸に物語は移っていくだ。今回の三体Ⅱではサブタイトルにもなっている黒暗森林の章がやはりクライマックスだろう。三体人に打ち勝てるという楽観主義が蔓延したその時代で、三体人の送り込んだ一機の探査機によりすべてがひっくり返り、どんどん状況が変わっていく所はワクワクしてくるアイディアがいっぱい詰め込まれている。今回の三体Ⅱで地球人と三体人の関係も変わっていくことになるのだが、最終巻では一体どうなるのだろうか?今から楽しみだ。

ところで、危機紀元200年代では、地球人は地下に都市を築いて生活しているのだが、地下から地上に上がることをなぜか 「地上に降りる」と表現していて、私の感覚では妙に感じるのだが、これは誤植・誤訳の類なのだろうか?ちょっと気になった。それと、葉文潔はなぜ宇宙公理を羅輯に授けたのだろう?その理由は次巻で明らかになるのだろうか?