隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

水を縫う

寺地はるな氏の水を縫うを読んだ。

この作品は北上ラジオの第17回目で紹介されていた。

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6人の家族の物語と帯には書かれているが、父(離婚して別居)、母、姉、弟、祖母の5人家族で、残りの一人は誰?となるのだが、北上ラジオではその6人目について言及されているので、ネタバレを嫌うのなら、読む前にはラジオを聞かない方がよい。私は例によって、ラジオを聞いてから本を読むまでに時間が空いたので、ラジオの内容はすっかり忘れていた。

弟の清澄は手芸が好きな高校一年生で、中学の時はそのことで同級生から何となく浮いていた。でも本人は好きなものを好きというのがなぜ悪いと思っている。姉の水青は可愛いものが苦手だ。小学生の頃、痴漢にスカートを切られた。学校の先生に、そのスカートが女の子らしい可愛いものだったから切られたのだというようなことを言われてから、そのことが頭にこびりついて離れず、可愛いものが嫌いになった。結婚式をまじかに控えていて、最初は式も挙げないつもりだったが、新郎の母親に説得されて式を挙げることにした。だが、ウェディングドレスはどれもこれも好みに合わない。すると、弟の清澄が姉に合うウェディングドレスを作ると言い出した。母親のさつ子は子供に失敗してほしくなくて、先回りして、アレをするな、コレをするなと言うのが習い性になっていて、清澄はちょっとうんざりしている。でも、失敗したかどうかは誰が決める?祖母の文枝は男らしさ・女らしさを期待されて育ってきて、それに違和感も感じてきた。しかし、知らず知らずに自分もそのらしさに囚われてしまうことがある。父親の全はあまりにも生活力がなく、父親にもなれないような男なので、さつ子から離婚されてしまった。それ以来服飾専門学校の同級生の黒田の会社で、服のデザインをしている。生活力がないのは相変わらずなので、黒田に頼りっぱなしだ。

こんな家族の物語。物語の縦糸は清澄が作ると言い出した姉のためのウェディングドレスの話であり、章が変わるごとに語りての視点が変わってそれぞれの違和感のようなものが横糸となって物語が進んでいく。「水を縫う」というタイトルはどういうことなのだろうと思いながら本書を読んだ。「水」は父親の全が水青と清澄の名前に込めた「濁らず、腐らず意志を持って流れていく」を意味していて、それが清澄がウェディングドレスにほどこすある仕掛けに繋がっていく。だから、「水を縫う」になったのだということが最後まで読むとわかる。そういう意味では、このタイトルはちょっと深い。この物語の中で、何か劇的なことが起きるわけではないが、縦糸となっているこの6人家族でウェディングドレスを作り上げていくストーリーが後半に向かって盛り上がっていくのがいい感じになっている。